7、これが、証拠です!

「そんな!? なぜ……――‼」

 想定と違う判定結果が出て、ブリッジボート伯爵が現実を疑う目をしている。

 会場中が注目する中、私はリリーの記憶を打ち明けた。
 
 原作のロザリットとパパが「悲劇のヒロイン」と呼ばれたのは、裏設定の存在が大きい。

 野盗に襲われて逃げた馬車が崖から落ちて命を落とした、死体も見つからなかったと言われるロザリットは、実は死んでいなくて、騎士に連れられて逃げていた。
 けれど途中で騎士が力尽き、ロザリットはひとりで森の中を彷徨った。そして、限界まで疲労して意識を失ったところを旅人に救われ、近くの街の孤児院に連れて行ってもらったのだ。
 心身のショックが大きすぎたのか、目が覚めたときには記憶をなくしていた。

「私は、ほんもののロザリットです。そして、証言します。……そこにいるブリッジボート伯爵が賊を雇い、私を攫わせました」
 
 リリーは、実は本当に本物の娘だったのだ。でも、記憶を失っていて、自分が実の娘だと思い出せなかった。パパも、本物のロザリットは死んだのだと最期まで思っていた。

 ……私は、原作に納得がいかなかった。二人が可哀想で、救ってあげたかった。

「――これが、証拠です!」

 ずっと肌身離さず持っていたペンダントを取り出して、みんなに見せる。

「それはブリッジボート伯爵家の紋章ではないか」

 驚く全員に、私はペンダントトップにかけられた騎士の魔法を発動させた。すると、会場の壁に過去の出来事が幻の光景として映し出され、全員に真実が明かされる。

 * * *
 
 過去の夜。
 賊が二人、馬車を走らせながら会話している。
 
『おっ、そのペンダント、売れそうだな。盗んだのか』 
『間抜けの依頼人が余所見してたからいただいたのさ。貴族様の紋章付きだぜ』
『ヒュウ、使い道考えただけでわくわくするな』

 そこに馬を寄せ、走らせていた馬から馬車に飛び移ったのが、私を連れて逃げた騎士。

 騎士は賊と争い、私を抱きかかえ――ハッと気づいたときには手遅れで、馬車は崖から転落した。背中の傷は、その時にできたのだ。

『お嬢様……ご、ごぶじで……』 
『うわあああああん! うわあああああああん!』
 
 ぼろぼろになりながら私の命を守ってくれた騎士は、ペンダントに魔法をこめた。

『お嬢様、私はここまでです。申し訳ございません……このペンダントを、お持ちください』
 
 自分が見た映像を少しだけ他者に共有できるのだと教えて、私にそれを託して――――力尽きた。
  
 * * *
 
「こ、これは――――証拠だ。犯罪の証拠だ……」

 会場が騒然となる中、私はブリッジボート伯爵が差し入れした薬を使用人に持ってきてもらった。

「このお薬は、ブリッジボート伯爵がパパに差し入れした薬です。飲み続けると少しずつ判断力がなくなる効果があります」

 続いて、シトリ殿下の手にあるグラスを示す。

「あのグラスの中身も調べてください! 外国の毒です!」

 どよめきがさらに大きくなる。シトリ殿下が毅然とした態度で現場を指揮して調査を行い――ブリッジボート伯爵の罪は明らかになった。

 * * *

「な、なぜ。なぜ。吾輩の計画は順調だったのに。手抜かりないと思っていたのに。くそっ、くそっ、くそっ……失敗した、失敗した、失敗した……!」

 処刑台にブリッジボート伯爵の悔恨の嘆きと断末魔が響き渡る。

「助けてくれ! 反省する、謝る! 許してくれ! 死にたくないっ! 死にたくない、死にたくない、死にたくない、や、やめっ――――」

「――――いやだあああああああ‼」

 その日、本当の悪は裁かれた。