3、パパは、ニッコニコ

 公爵家の応接室は、白を基調とした優美な内装だ。

「ロザリットおぉぉぉ!」

 令嬢としてふさわしい装いをさせてもらった私を見て、パパはぎゅうっと両腕で私を抱きしめた。

「ああっ、なんてことだ。ロザリットだ。ロザリットがここにいるじゃないか!」

 使用人たちはその姿を見て、困惑した気配。でも、今のところ仕事に徹する様子でお菓子やお茶を用意してくれている。
 
 猫脚のテーブルの上に、銀製のトレイに美しく盛り付けられたお菓子が置かれる。
 シナモン入りのビスケットは、ロザリットの好物だ。

「お前が好きなのはどれかな、ロザリット? パパに教えてごらん」
「ビスケットがいい」
「おお、おお。そうだったね。ロザリットはそうだったね!」
   
 パパ、大興奮。
 応接室のふかふかソファに座らせてお菓子を食べさせてくれながら、パパは現実と夢のはざまをさまようように「この子はロザリットなんだ」「いや、違うだろ、正気に戻れ、落ち着け」とぶつぶつとつぶやいてから、私を撫でる。
 
「ロザリット、怖かっただろう。痛かっただろう。怪我はすぐに治るからね。パパが守ってやれなくて悪かった。パパって呼んでくれ」
「パパ……」
「ああ……っ、ロザリットだ。間違いないっ! 生きてる。よかった、ロザリット!」
  
 感極まったようにぎゅっと抱きしめられる。
 あったかい。なんだか私もうるうるとしてしまう。

「だ、旦那様、何を仰っているのですか?」
「どうか、お気を確かに……」
 
 家令やメイド長が心配そうにしている。ちなみに、家令はパパの気の置けない親友という設定があったはず。
  
「わが娘ロザリットは生きている。いいな」

 パパは断固とした口調で指示を出した。

「招待状があっただろう。返事がまだ間に合うはずだ、持ってきてくれ」
 
 メイド長はすぐに招待状を持ってきた。

「これは二か月後にあるパーティの招待状だよ。パパと一緒に参加しまちょうねえ~~っ」

 顔をすりすりされて、お髭がチクチクする。いちゃい。

 助けを求めて周囲を見ると。
 
「旦那様のあんなに嬉しそうなお顔は久しぶりに見た……」
「なんて幸せそうなんだ」
「それにしてもあのお嬢様、本当にロザリット様によく似ているわね……」

 家令とメイドは「現実を突きつけるべきだと思うが、あんなに嬉しそうで水を差すのが悩ましい」と悩ましげに視線を交わし合い、結局、何も言わないことを選んだ様子。

 原作と違って、パパがニッコニコ。

 よかった。きっと、これでちょっと悲劇から遠ざかったことでしょう! 
 ……だよね?