「しずくー」



部屋でくつろいでいるとお母さんの声が聞こえた



「何ー?」



ドアの向こうにいるであろうお母さんに聞こえるように返事をする



「これ、お姉ちゃん忘れたんだって」




結局部屋に入って来たお母さんが見せたのは、A4サイズの冊子



「何それ」



「撮影中のドラマの台本らしいのよ。今日はこれがどうしても必要らしくて」



「そうなんだ」



「お母さんこれからおばあちゃんちに行かなきゃいけないし、しずく事務所まで届けてくれない?」



「えー…」




今日、寒いのになぁ。


たまってた録画見ようと思ってたのに…



「近いんだからいいでしょー」



うちからお姉ちゃんが所属する事務所は歩いて10分ほどで、確かにすごく近い。


だからたくさんお金を持っているはずのお姉ちゃんがずっと実家に暮らす理由も、事務所が近いからなんだよね。



パジャマから服に着替えてダウンを来てマフラーを巻いて準備は完了。



メイクとかしてないけど…まあいいよね。



お母さんから台本を受け取って、マンションを出た。




「寒っ…!」




やっぱり頼まれるんじゃなかった!


1月下旬の寒波は、肌が痛くなるほど。




お昼だというのに雪が降りそうな、曇天の空だ。