朝。

 宗介は毎日、学校へ行くのに恋を迎えに来る。
 
 ピンポーンとチャイムが鳴って、恋は玄関に向かった。

 ドアを開けるといつも通り鞄を背負った宗介が居て、片手をあげた。



「おはよう」


 涼しげな声で宗介が声をかけると、恋は返事をしなかった。

 代わりに俯いて、じっと黙り込んでいる。


「どうしたの?」


 宗介が聞いた。



「今日係のミーティングだよ。お前の係放課後仕事なくて良いね。」

「……」



 恋は応えない。

 宗介が気づいて眉を顰めた。



「どうしたの?」

「……」

「どうしたんだよ。黙り込んで。何かあったの?」

「学校に、行きたく、ない」

「はあ?」



 宗介はドア枠に片手をかけて恋を見下ろした。



「喧嘩でもしたの?。駒井に言おうか?それとも田山?」

「違う」

「苛められたの?。誰に?。言いな。僕が言ってきてやるから。」

「ううん」

「違うの。じゃあどうしたんだよ?。」



 恋が黙っていると、宗介は腕を組んで、声を荒げた。


「言わなきゃ分かんないだろ。どうしたんだよ。」


 なおも恋が黙っていると、宗介は恋を睨んで凄んだ。


「言え。言えって言ってんの。いい加減にしな。」


 恋がぽろぽろと涙をこぼし始めたので、宗介はちょっと驚いた顔になった。

 宗介はこのあやかしの幼なじみが大好きだった。

 いつでも恋の事を一番に考えている。







 ────恋が泣くなんて。








「分かってると思うけど」


 宗介が口を開いた。


「僕はお前の味方だよ。何かしちゃった後だとしても。全部代わりにやってやるよ。恋の失敗くらい僕が取り返したい物ってないよ。みんな助けてあげれるよ。」


 恋が泣いた目を拭って、宗介に抱きつくと、宗介は恋をぎゅっと抱きしめた。


「大丈夫だよ。僕に言いな。全部言って。つらい時僕にそう言ってくれるのが嬉しい。」


 恋は、宗介の耳元に口を寄せると小さな声で呟いた。



「係の」

「係の?」

「プリント」

「プリント?」

「失くしちゃった」

「……はあ?」



 宗介は恋を抱きしめるのを辞めた。


「美化係のプリント失くして、もしかしてそれで泣いてるの?」


 恋は頷いた。

 宗介は一気に呆れ顔になった。



「馬っ鹿じゃないの。そんなので泣くなんて。プリントって、何の?」

「箒の交換表」

「ふーん。お前はそれだけでそんな風になるんだね。」

「……」



 再び涙目になった恋に、宗介は呆れ返った顔を崩さないまま言った。



「そこで泣いてな。付き合ってらんない。」

「だって」

「もう分かった。良い。僕先行くわ。それじゃあね」



 それだけ言うと、パタンとドアが閉まって、宗介は行ってしまった。