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絶対に喉を通らないと思っていたのに、いざ口に入れるとすんなり飲み込めた。


冷え切っていた指先もだんだんと体温を取り戻していく。


向かいでは、相楽さんが同じものを食べている。

それだけでとても安心できた。


どうにでもなればいいという投げやりな気持ちも、いつの間にか薄れて。



「実は今日帰ってるときに、駅のホームでお母さんを見つけたんです」

「ふうん」


おかしいハナシ、この至ってどうでもよさげな相づちのおかげで、
気負うことなく打ち明けられる気がした。



「わたしの降りる駅じゃなかったんですけど、思わず追いかけちゃったんです。お母さんは男の人とふたりで、薬指に立派な指輪もしてました」

「まじか。それも借金のカタにすればよかったな」



悪びれなくそう言われて。

なんか、それが本当に相楽さんらしくて。



「……ふふっ」

と思わず笑ってしまう。