「やめた、支度しよ。」
思い出しそうになったテツの匂いを振り払い、洗面所へ向かった。
まずは身の回りを整える。
完璧で完全無欠な女の子を演じるために。
洗面所に降りた私は、まず顔を洗った。
その後、髪には軽くヘアオイルを塗ってアイロンを通す。
そして軽くメイクをする。
最後に唇にリップを塗ったらおしまいだ。
リップを塗った唇からは、ほのかに甘いバニラの香りが漂ってきて、心に温度が戻ってくる。
これは……、私のお守り。
私が"篠宮緋彩"でいるためのもの。
……ねぇ、お母さん。
私は間違っていないよね……?
『緋彩……っ、ご、めんね……っ。だぁーいすき、しあわせに……なって…っ、ね…?』
蘇った言葉に唇を噛み締め、適当に朝ご飯を食べた。
このときの私は相当ひどい顔をしていたと思う。
辛さと悲しさ……
そして何より、あいつへの憎しさ。
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「…そろそろ時間だ、行かなきゃ。」
自分の部屋で制服に着替え、革製のカバンを手に取り家を出た。