街の一角にある厩に愛馬を預けると、アレクシスはいつも通りの不機嫌そうな顔で言う。

「先に軽く昼食を済ませよう。すぐそこに行きつけの店がある」
「食事をするのですか?」
「だから……そう言っているだろう」
「嬉しいです……っ、私、外食だなんて初めてで」
「外で食事をするのは初めてなのか?」

 エリアーナが小さくうなづくのを見て、青灰色の瞳は目を見張る。

「私が育ったタンザナの田舎には、小さな宿屋と旅人が集まる居酒屋が数軒あるだけでしたから」

 ふくりと厚い唇に薄らと紅を差しただけの(かんばせ)に派手さはないが、にっこり微笑むエリアーナは淡色の野花のように可憐で愛らしい。

「……期待するな。連れて行くのはただの食堂だ」

 アレクシスは、かあっと頬に熱が昇るのを誤魔化すように視線をそらせる。

 ——初めて……とはな。ならばもっと洒落た店にするべきだった。いつかエリーと……もっと近づけたなら。帝都一美味しいものを望むままに食べさせてやりたい。

 そんなアレクシスの本心を知らず。
 いつ夫の機嫌を損ねないかと、エリアーナは不安で胸をいっぱいにしていたのだった。