とっさに目をつむると、続いて後ろに跨ったアレクシスの両腕がエリアーナを閉じ込めた。

「……行けそうか? ゆっくり歩かせるが、怖ければ俺に捕まって。何かあったら声を掛けて」

 その言葉通りに立派な馬は悠然と歩き始める。
 とたん、アレクシスが好んで纏っている香水の爽やかな薫りがふわりと揺蕩った。
 頭の上から降ってくる声も、背中を包み込む分厚い胸板も、エリアーナの鼓動をとどろかせるのに十分だ。

 ドキドキと煩い自分の鼓動に驚いてしまう。
 馬の前脚が屋敷の門の敷居を跨いだ時、必死で握りしめていたタテガミを手離しそうになってぐらりと身体がのけぞった。

「ひゃぁっ」

 途端、力強い腕がエリアーナをぐいと引き寄せる。
「俺に捕まれと言ったろう? 無理をするな、危ないから」

「はっ、はい……!」
 仕方がないのでアレクシスの腰元に手を回して、上着をぎゅと掴めば、広い胸に遠慮がちに頬を寄せた。

 ——馬で向かうなんて聞いてませんっ。私の心臓、お店に着くまで持つかしら。それに旦那様……今、『俺』って?