一切慌てた様子も、気負う様子もなく、いつも通りのまま左京くんは走り出した。

先頭のクラスとは半周差がついている。

「諦めるなー、走りきれ!」

「黒狼さまの走り方すてきっ!」

右京くんの時と同じでたくさんの声援が送られるものの、誰もここから1位に巻き返そうとはしていない。

きれいなフォームで左京くんは走って行く。

なぜだろう、風にあたって後ろになびいている茶髪にドクリと心臓が鳴った。

グングン前の走者との差が狭くなっていく。

「抜いたっ!」

思わず声が漏れる。

1人抜いた後の左京くんは超絶好調。

あっという間に2位に躍り出た。

あと1人、少しの差なのに追いつけない。

「っ、…がんばれ!」

そこまで大きな声ではなかったと思う。

でも、私に出来る最大限の応援だ。

左京くんは走り続ける。

1位に並んだ。

あと少しだ。

ゴールテープが見えてくる。

あと、少し…。

ワァー、っと大きな歓声が上がった。

先にゴールテープを切ったのは左京くんだった。

少しだけ息を切らせた左京くんは鬱陶しそうに長めの前髪を掻き上げている。

普段なら絶対にしないような行動に、女子達の悲鳴が聞こえた。

体育祭効果だろうか、左京くんのことがいつも以上にかっこよく見えた。