「あなたはどなたですか?何かご用でしょうか?」

玲瓏な声が藍の耳にこだまする。藍はハッと我に返り、名前と同じ一年生であることを話した。

「それで?他クラスで何の接点もないあなたが何の用ですか?」

女子生徒ーーー理沙の声には微かに怒りがあるように聞こえた。腕組みをして藍を見下ろす彼女の目は人形のようにどこか冷たい。藍は深呼吸をした後、絵のことについて話した。

「僕、ずっとあなたと話してみたかったんです。中学三年の夏、あなたの描いた絵を見ました。今もその絵を思い出すと胸が震えるんです。「八月の少女」、すごく素敵な絵です。どんな名画よりも綺麗です」

藍の頭の中にあの絵が浮かぶ。あの美しい情景に藍が頰を緩ませていると、目の前にいる理沙を纏う空気がどんどん凍り付いていくことに気付いた。理沙は無表情になり、藍を睨み付ける。

「……そんなくだらないことを話にわざわざ来たんですか?もう二度と私に絵の話をしないで!」