グルリと壁にある絵を見た後、藍は教室全体を見渡す。その時、黒板の前にある教卓に紙が何枚も置かれていることに気付き、近付く。どうやら昨日美術の授業をした一年生の描いたもののようだ。美術教師が置き忘れてしまったのだろう。

「デッサンか」

生徒の大切な作品を置き忘れる教師に呆れつつ、藍は一枚ずつ絵を見ていく。花瓶にいけられたチューリップが真っ白な紙に描かれている。

何も考えずにデッサンを見ていた藍だったが、最後の一枚を目にした瞬間に心が大きく震えた。藍の目は大きく見開かれ、全身にブワリと鳥肌が立つ。

その紙には、みんなと同じように花瓶にいけられたチューリップが描かれていた。しかし、みんなとはその絵はどこか違っていた。描く時間は恐らく一時間もなかっただろう。それなのに、影やチューリップの花弁が丁寧に描かれ、まるでモノクロの写真を見ているかのような気分になっていく。

「一体誰がこの絵を……」

紙の端に書かれた名前を見て、藍の胸が高鳴った。落合理沙。藍が会ってみたいと思った名前がそこにあった。