また、救えなかった














俺が医者になってから














もう5年になるけど














この痛みだけはどうしても慣れない














もちろん救える人もいるけど














やっぱり考えてしまうのは














救えなかった命のことで














「死亡を確認しました」














そうご家族に伝えるのは














俺にとってもご家族にとっても














苦しいことには変わりない














ご家族の泣き声が耳から離れない














そんなことを考えながら帰宅した














ガチャガチャ














「ただいま、」














凛「京、おかえりなさい」














そう言って近づいてきた凛を抱きしめる














「遅くなってごめんな、」














凛「大丈夫、仕事大変なんでしょ?」














「そうだな」














そんなの嘘だった














最近は比較的落ち着いていて














定時には帰ろうと思えば帰れた














だけど、俺は帰らなかった














あの時まだやれることがあったんじゃないか














そう思わずにはいられなくて














毎日毎日、論文を読みあさって














なくなった患者のカルテばっかり見て














気づけば日が変わっていた














凛「ご飯はちゃんと食べた?」














「食べたよ、ちゃんと。」














また、1つ嘘をついた














あれからご飯が喉を通らなくなって














日を重ねるごとに














嘘をつく回数も多くなっていった














日付が変わったら家に帰って














朝早くに家を出ていく














そんな生活を続けていたある日














「死亡を確認しました、」














その言葉をまた伝えなければいけなかった














今日は当直だった