「う、わ……すっ……げぇ……」


そこには、見たこともない俺の姿があった。

窓の外を向いて、足を組んで偉そうに座っている俺の絵。窓からは陽が差し込んでおり、一言で言えば"綺麗"や"儚い"と言う言葉が似合いそうな絵だった。

それは正しく、あの一ヶ月間の俺のはずなのに。これは本当に俺の絵なのか?とわかりきったことを聞きたくなってしまう。

圧倒されるほどに大胆で、でもやはり繊細で丁寧なのがわかる。

その絵からは痛いくらいの沙苗の想いを感じる。
それを見て、俺は無言で涙をこぼした。


――好きなんだよっ! 戻ってこい! 沙苗!


ちょうど一年前、病室で沙苗の心臓が止まった時、気がつけばそう叫んでいた。

無駄だとわかっていながらも、叫ばずにはいられなかった。

だけど、次の瞬間聞こえた気がしたんだ。


――晶、大好きだよ。


そんな沙苗の声が。

その言葉と共に、沙苗は帰らぬ人となった。

俺が沙苗の病気を知ってから数ヶ月後の出来事であり、余命の通りだった。

あの声は俺の幻聴かもしれない。多分そうだ。都合の良い幻だったのだ。

そう、自分を納得させていた。そうしないと、後悔に押しつぶされてしまいそうだったから。

プロになったら言いたいことがある。そんな風にかっこつけて逃げた自分自身を恨んでしまいそうで。

……だから、この絵を見て俺は涙が止まらなかった。

もっと早く、自分の気持ちを言えばよかった。

もっと素直になればよかった。

そうしたら、また別の未来が待っていたかもしれないのに。

だけど、この絵を見れて嬉しいと思ってしまう俺もいて。

もう、わけがわからなかった。


「……すごいわよね、この絵」

「……おばさん」

「沙苗がこんなに力強い絵を描くなんて、私知らなかった」


俺の隣に並んだおばさんは、絵を見ながら切なげに微笑む。

そして、


「晶くん。実はこの絵の他に、もう一つ渡しておきたいものがあるの」


と言って、俺に一冊のスケッチブックを手渡してくれた。


「これは……」

「病室で、沙苗がデッサンしてたものよ」


そうだ、何度か見たことがある。

中身を見せてと頼んだら絶対に嫌だと言われてしまったけれど、楽しそうに描いていたように見えた。