「なぁ、沙苗」
ん?なに?
「……俺、もう一度頑張ってみようと思うんだ。サッカー」
その言葉に、私は感情のままに目を強く開く。
すると晶はそれを見て面白そうに笑った。
「ははっ、驚いたか? ……俺、沙苗を見てて今のままじゃダメだと思ったんだ。俺レベルじゃプロじゃ通用しないなんて、やってみないとわかんないよな。だからもう一回、プロ目指して頑張ってみようと思ってる。――応援してくれるか?」
こくり。
一度大きく頷くと、晶は幸せそうに笑ってくれた。
「さんきゅ。お前に応援してもらえたら、俺なんでもできそうな気がする」
買い被りすぎだよ。そう言えたらいいのに。
「あ……い、あ……」
声を出そうにも空気みたいなか細いものしか出なくて、あきらと言いたいのに上手く言えなくて。
それでも、晶は
「うん、呼んだか?」
私の言葉を掬い上げてくれる。
また、あの大舞台で晶が戦う日が来るかもしれない。
あのかっこいい晶がプロとしてテレビに映る日が来るかもしれない。
そう思ったら、頑張れ、と一言伝えたくて。
口を開き、ゆっくりと"がんばれ"と動かしてみる。
すると、晶は驚いたように目を見開き、涙を溜めながら
「あぁ。どうなるかはわからないけど、精一杯頑張るよ。約束する」
そう言ってくれた。
「……沙苗。あのさ」
続けるように口を開いた晶だったけれど、その先をなかなか言わない。
不思議に思い見つめると、晶は私を見てへらりと笑ったかと思うと
「プロになったら、お前に言いたいことがあるんだ」
と、どこか覚悟を決めたかのように深呼吸をした。
「だから、俺がプロになるところ、しっかり見届けてくれよ」
その言葉に、私はうまく頷くことができなかった。
それは無理だとわかっていたからだ。晶も今の私の姿を見ればわかっているはずなのに、この男はとことん私を生かしたいらしい。
私はもういつ死んでもおかしくないくらいに弱っていた。
正直、毎日のように夢の中であの光に包み込まれそうになる。
その度に晶の声が、私の身体を掬い上げてくれていた。
でも、さすがにもう無理だよ。
私は最近知ったんだ。あの光は、怖いものじゃないって。
確かにもう戻ってこられなくなってしまうだろうけど、でもそこは温かい気がする。
だから、もう怖くないんだ。
でも、どうしよう。
心残りが増えてしまった。
晶がもう一度大舞台に立つ姿を、この目で見てみたい。
そう思ってしまう。