当たり前だが、両親は泣いて反対した。

何度も何度も説得された。

そんなに絵が描きたいのなら、病気が治ったら好きなだけ打ち込んでいい、美大の受験だって何度でも後押しする。だからお願いだから治療をしてほしい。命があればなんだってできる。だから諦めちゃダメだ。そう言ってくれた。

だけど、自分の才能の無さに諦め将来に対して夢も希望もなくなっていた私にとっては、先のことよりも今のことの方が大切だった。

今やりたいことがある。
今描きたいものがある。

それは今しかできなくて、掴み取ることができるかすらわからない未来に賭けるほど心に余裕は無かったのだ。
そのため、誰に何を言われても私が首を縦に振ることはなかった。

私は元来、一度こうと決めたらほとんど意見を曲げないタイプだ。

悪く言えば頑固者。両親は、そんな私の性格を嫌というほど知っていた。

だから、最終的には私の気持ちを汲んでくれたのだ。
その代わり、卒業して絵が完成したら、治療に入ること。それが条件だった。



「……お父さんもお母さんも、沙苗には生きててほしい。だから、今すぐにでも入院してほしいのが本音なの。右腕を切断したとしても、生きていてほしいのが本音」

「うん」

「だけど……っ、沙苗が後悔しないように生きてほしいとも思ってる」

「……うん」

「沙苗にとって、その右腕が命よりも大切なものなのはわかる。でも生きててほしい。もう、どうしたらいいのか、お母さんにもわからないの。ごめんねっ……ごめんね沙苗……なんでもっと早く気付いてあげられなかったんだろうっ……ごめんね沙苗っ」


そして今日、とうとう先生から余命宣告を受けた。


"やはり病状がかなり進行しています。さらに、他の骨や肺にも転移が見られます。……残念ですが、五年生存率はかなり低いと思われます。……それどころか、これ以上治療が遅くなれば……もっと短くなると覚悟しておいていただきたいです"


先生はかなり気を遣って言ってくれたのだろうと思っている。

自分の身体のことだ。自分が一番よくわかっている。
晶が言っていた通り、最近咳が頻繁に出るようになった。

足の骨も痛むことが多くなってきた。

今は処方されている痛み止めでどうにか絵を描いているけれど、病気の進行が止まるわけじゃない。

痛み止めが切れた時の痛みは耐え難いものがあるし、よくこんな身体で生きてるなと自分でも引くほどだ。

どんどん病魔は私の身体を蝕んでおり、体力が奪われていくのを実感している。

大きめの服で隠しているけれど、食欲がなくなったことと病気のせいで体重も落ち、身体はガリガリ。
こりゃあ晶にも心配されるのも無理はない。

きっと、私の余命はもっと短い。

腕を切ったとて五年も持つはずがないのは私が一番よくわかっていた。

もしかしたら、もうあと一年くらい。いや、もっと短い可能性だってある。

正直、自分の身体のことや先生の話聞くに、一年以上生きていられるとは思えない。

もって半年がいいところじゃないだろうか。

でもいいんだ。先の見えない長い人生のために生きるよりも、今の私にとってはあの作品を完成させることのほうが大切だから。

馬鹿だって言われてもいい。頭がおかしいと言われるのは承知の上。

それでも、大切なものがあるから。

あともう少し。もう少しだけだから。

私の最後のわがままを、聞いてほしい。