「あー、面倒くせ…。そういうのどうでもいいんだよね。お金はさ、綾香の口座に振り込んでよ。金借りてる会社に見付かると、取られちゃうからさ」


哲平を見ると、手を握り締めて、震えていた。
それでも哲平は、殴るのを我慢しているみたいだった。

ごめんね、哲平…。


「…分かりましたっ!」

「…じゃあ、俺部屋に戻るから。綾香を連れて行くなら、俺が居ない時にして?俺、最近、イラついてるからさ、お前の事殴るかもしれねぇし…」


その時哲平がキレて、鳴海に殴りかかった。
鈍い音と一緒に、哲平が怒鳴り声で言った。


「ふざけんな!!」

「いってぇなぁっ…」

鳴海は鼻血を流していた。


「なぁ、俺がどんな気持ちで綾香と終わったか分かってんのか?俺と綾香がこの町を離れて、何で綾香を待ってた?!それを簡単にやるとか言うなよ!!」


それでも、鳴海は悪びれた様子もなく言った。


「血が出てるよ…。なぁ、慰謝料くれよ」


哲平は財布から、あるだけの1万円札を鳴海に投げつけて言った。


「俺、帰るわ…」


私は哲平を見送る事も出来なくて、ただ呆然としていた…。

何で、鳴海はこんなになってしまったの?



もう涙も出ない……。