暫く二人で泣き続けて…。
目が腫れるくらい泣くと、高橋さんは私の肩に手を置き、そっと離して言った。


「奥様に渡したい物があるんです」


そう言って手渡されたのは、高橋さんが書いた料理のレシピと、高橋さんの連絡先だった。


「ありがとう…」

「いつでも連絡して下さいね。何かあったら…私はすぐに駆け付けますから」

「うん…」

「それでは、そろそろ行きます」

「もう行っちゃうの?」

「はい…」

「…分かった。又うちに余裕が出来たら、高橋さんに来て貰ってもいい?」

「…?!勿論です」


高橋さんは笑顔で言った。

私は高橋さんの重そうな荷物を持つ。


「奥様、そんな…私が持ちますから」

「高橋さん。高橋さんはもううちの家政婦じゃないんだから、玄関まで私が持つわ」


私がそう言うと、照れ臭そうに高橋さんが笑った。

高橋さんは、家を出ると深々と礼をして振り返ることなく歩いて行く。

私はその姿をしっかりと目に焼き付けた…。


高橋さんと料理をした事。

高橋さんに家事を教えて貰った事。

高橋さんと鳴海を待った事。


きっと鳴海より多くの時間を、高橋さんと過ごした。
思い出いっぱいのこの家を、守ろうと心に誓った。