「……女官に任せればいいだろ」
「そうですけど、あの子たちは私の子。そしてあなたの血を継いだ子です。可愛くて仕方ないんです」
「それを言うか……」

 勝てないだろ……と黒緋が憮然(ぶぜん)とした顔になりました。
 そんな黒緋に私がクスクス笑うと彼も目を細めて笑いました。

「だが起きるにはまだ早い、もう少しだけいいだろ」
「仕方ないですね。ふふふ、ではもう少しだけ」

 睦言のように言葉を交わして私たちはまた(しとね)に沈んでいく。
 そのまま互いの背中に両手を回しましたが。
 ひらひらひら。ひらひらひら。
 どこからともなく紋白蝶(もんしろちょう)が飛んできました。
 紋白蝶は私の前をひらひら舞うと、ふっと消える。

「……どうやら紫紺と青藍が目を覚ましたようです。先に目覚めた青藍が眠っていた紫紺をぺちぺちして起こしたんですね」

 蝶は私の式神です。
 紫紺と青藍の見守りをお願いしていましたが、二人が起床したので知らせにきてくれたのです。

「そのようだな……」

 憮然としたままの黒緋にクスクス笑う。

「そんな顔しないでください」
「そんな顔にもなる。まったく、子どもは早起きだと知っていたが」

 (むつ)みあう時間を中断されて残念そうな黒緋にくすぐったい気持ちになりました。私との時間を惜しいと思ってくれることが嬉しいのです。
 私は悪い妃ですね。彼は残念そうなのに、こんなことで喜んでしまって。
 私も後ろ髪を引かれながらも寝床から離れて支度します。
 式神の女官がしずしずと入ってきて、私の着替えの手伝いをしてくれました。
 着替えを終えると次は黒緋です。

「さあお目覚めを。二人が来てしまいますよ」

 そう声をかけると黒緋が渋々ながらも寝床から出てきました。
 黒緋の狩衣を用意し、彼の着替えを手伝います。
 本当なら女官の仕事ですが、こういう朝くらいは私が着替えを手伝いたい。装束を広げ、帯を締め、彼の衣装を整えました。

「出来ましたよ。今日も麗しい御姿です」

 黒緋を見上げてそっと笑いかけました。
 鍛えられた体躯は美丈夫でありながら勇猛。ため息がでるほど美しく端正な殿方です。

「ありがとう。お前はいつも綺麗だ」

 そう言って黒緋が目元に口付けてくれました。
 見つめあってまた唇が寄せられました、が。

「ははうえ〜! せいらんがおもらしした~!」
「うえ~~ん! え~~ん!」

 御簾(みす)の外から聞こえてきた紫紺の声と青藍の泣き声。
 もう観念するしかありませんね。