御簾(みす)に明るい朝の日差しが差しました。
 眩しい……。
 ぎゅっと目を閉じて、人肌の柔らかな温もりに頬を寄せる。
 すると力強い両腕が私を抱きしめて全身が包まれました。
 思わずほうっと吐息が漏れて、眠りからゆっくりと意識が浮上していきます。

「ん……、ぅ……」

 重い瞼を薄っすら開けると、寝起きの視界に映ったのは精悍さがありながらも端正な顔立ち。もちろん黒緋です。
 見慣れた顔なのに、こうして呼吸が届く距離にあると息を飲む美しさ。

「起こしたか。おはよう」
「おはようございます。すみません。あなたより早く起きたかったのに……」
「気にするな。まだ起きるには早い時間だ。それに、もう少しお前の寝顔を見ていたかった」
「見ていたんですか?」
「見ていた」

 黒緋はそう言うとニヤリと笑う。
 なんだか恥ずかしくなって、抱きしめてくれる彼の肩口に顔をうずめました。
 でも腕枕されていたので黒緋にさらに近づきます。互いに素肌のままなので触れた場所から体温が交わっていく。
 寝間には昨夜の名残りを引きずった甘く気怠い雰囲気が漂っていました。
 私たちは見つめあったままどちらからともなく唇を寄せ合う。
 しっとりと唇を触れあわせ、ゆっくりと離して、でもまた触れあいたくて口付けを重ねました。
 何度も口付けを交わして、見つめあったまま鼻先を触れあわせる。
 昨夜の酒は()めたのに、二人で朝を迎える甘やかな幸福に酔ってしまいそう。
 するとどちらかともなく「ぷっ」とふきだしました。

「ふふっ、こんなに近い」
「ああ、絶景だ」

 黒緋はニヤリと笑うと私の鼻先に啄むような口付けをして、私の両脇に手を入れたかと思うと体を持ち上げられました。

「わわっ」

 突然のことに驚くけれど、仰向けで寝ている黒緋の胸板に降ろされます。
 彼の上に寝そべる体勢になる。鍛えられた分厚い胸板に両手を置いて、ぺたりと頬を乗せました。

「……重くないですか?」
「軽いくらいだ。もう少し太れよ」
「なんですかそれ」

 クスクス笑ってしまう。
 肌と肌がぴたりと重なって、互いの体温が混ざりあう。ああ抱きしめられるとダメです。心地よいぬくもりに包まれるとうとうと眠ってしまいそう。

「もう少し寝るか?」
「抗いがたい誘惑ですね。でもダメです。紫紺と青藍がいつ起きるか分からないのに」

 式神の女官が子どもたちを見守ってくれていますが、幼い二人はいつ目が覚めるか分かりません。
 起きたらすぐに行ってあげないときっと青藍は泣いてしまうし、紫紺だって寂しがります。
 でも黒緋がおもしろくなさそうに目を据わらせました。