「黒緋様、人間がこれほどの呪力を使えるものでしょうか……」
「常人でも命を引き替えにすれば可能かもしれないが今回は違う。それほどの呪力を発動させれば俺が気づく」
「そうですよね」
人間の強烈な負の感情はときに天地を揺るがすような呪いを発動させます。それは呪術者の命を引き替えにした呪いで、人々に大きな災いをもたらすのです。
でもね、それほどの呪力が人間から発動すれば黒緋が気づきます。私だって異変を感じることができます。だから今回の蝗害は普通の人間が引き起こしたものとは考えられません。
だとしたら……。
「黒緋様、まさか今回の一件に天上人が絡んでいるんじゃ……」
「そう考えるのが妥当だろうな」
「そんな……」
息を飲みました。
天上の誰かが悪意をもって地上を呪ったなら、人間の陰陽師ではとうてい太刀打ちできません。
「もしかして今回の畿内巡りも原因を探すためでしたか?」
「正解だ。蝗害に襲われた村を回るつもりだ。そこに藁人形があればほぼこの推察で間違いないだろう」
「藁人形?」
「ああ、都の廃寺に鬼が出没したが、その鬼の正体は大量のイナゴの死骸だった。その廃寺は藁人形の術場としても知られている場所で、利用された形跡があった。呪いを吸い取ればより強力な力を得られるからな」
「藁人形の呪いを掻き集めて鬼を……」
藁人形……。
嫌なことを思いだしてしまいました。
私は天上界の神域の森の近くで藁人形を見つけたのです。
藁人形に邪気はなかったのでただの藁の束として処理しましたが、もし邪気がなかった理由が吸い取ったからだったとしたら。
「黒緋様、天上人が絡んでいるとしたら、それは上級貴族の誰かかもしれません」
「どういう意味だ?」
「天上の神域の森の近くに邪気がない藁人形が打ち付けられていたんです。神域に近づけるのは天上界でも限られた身分の者のみ。従事する女官や士官も可能ですが、それでも不審な動きをしていればすぐに捕縛されるはずです」
神域の森は禁足地なので上級貴族でも入ることはできませんが、それでも森の入口で参拝することが許されているのです。
「藁人形か……。関係ないと思いたいが、調べる必要があるな」
ふと燭台の影から鷹が出現しました。黒緋の式神です。
鷹は大きな翼を広げると夜空に向かって飛んでいく。天上へ向かったようですね。
「離寛に調べさせる」
「離寛に……。武将のお役目もあるのに、彼の仕事を増やしてしまいましたね」
「いや、かえって調査範囲が狭まって喜ぶんじゃないか?」
「ん? ……もしかして、すでにお調べになっていましたか?」
「天上が絡んでいる可能性は考えていた。だがお前のおかげで調べる範囲が狭まった。すぐに結果もでるだろう」
「そうですね。なにか分かるといいのですが」
「ああ、俺たちはとりあえず蝗害に遭った村へ行くぞ。朝ここを出れば昼前には着くだろう」
「そうですね、そろそろ休まないと」
「ははうえー。せいらんがゆれてる~」
「え、揺れてる?」
ふと紫紺に呼ばれました。
振り返ると今までハイハイしていた青藍の頭がこくりこくりと揺れています。そのままぺたりと突っ伏して眠ってしまいそう。
「常人でも命を引き替えにすれば可能かもしれないが今回は違う。それほどの呪力を発動させれば俺が気づく」
「そうですよね」
人間の強烈な負の感情はときに天地を揺るがすような呪いを発動させます。それは呪術者の命を引き替えにした呪いで、人々に大きな災いをもたらすのです。
でもね、それほどの呪力が人間から発動すれば黒緋が気づきます。私だって異変を感じることができます。だから今回の蝗害は普通の人間が引き起こしたものとは考えられません。
だとしたら……。
「黒緋様、まさか今回の一件に天上人が絡んでいるんじゃ……」
「そう考えるのが妥当だろうな」
「そんな……」
息を飲みました。
天上の誰かが悪意をもって地上を呪ったなら、人間の陰陽師ではとうてい太刀打ちできません。
「もしかして今回の畿内巡りも原因を探すためでしたか?」
「正解だ。蝗害に襲われた村を回るつもりだ。そこに藁人形があればほぼこの推察で間違いないだろう」
「藁人形?」
「ああ、都の廃寺に鬼が出没したが、その鬼の正体は大量のイナゴの死骸だった。その廃寺は藁人形の術場としても知られている場所で、利用された形跡があった。呪いを吸い取ればより強力な力を得られるからな」
「藁人形の呪いを掻き集めて鬼を……」
藁人形……。
嫌なことを思いだしてしまいました。
私は天上界の神域の森の近くで藁人形を見つけたのです。
藁人形に邪気はなかったのでただの藁の束として処理しましたが、もし邪気がなかった理由が吸い取ったからだったとしたら。
「黒緋様、天上人が絡んでいるとしたら、それは上級貴族の誰かかもしれません」
「どういう意味だ?」
「天上の神域の森の近くに邪気がない藁人形が打ち付けられていたんです。神域に近づけるのは天上界でも限られた身分の者のみ。従事する女官や士官も可能ですが、それでも不審な動きをしていればすぐに捕縛されるはずです」
神域の森は禁足地なので上級貴族でも入ることはできませんが、それでも森の入口で参拝することが許されているのです。
「藁人形か……。関係ないと思いたいが、調べる必要があるな」
ふと燭台の影から鷹が出現しました。黒緋の式神です。
鷹は大きな翼を広げると夜空に向かって飛んでいく。天上へ向かったようですね。
「離寛に調べさせる」
「離寛に……。武将のお役目もあるのに、彼の仕事を増やしてしまいましたね」
「いや、かえって調査範囲が狭まって喜ぶんじゃないか?」
「ん? ……もしかして、すでにお調べになっていましたか?」
「天上が絡んでいる可能性は考えていた。だがお前のおかげで調べる範囲が狭まった。すぐに結果もでるだろう」
「そうですね。なにか分かるといいのですが」
「ああ、俺たちはとりあえず蝗害に遭った村へ行くぞ。朝ここを出れば昼前には着くだろう」
「そうですね、そろそろ休まないと」
「ははうえー。せいらんがゆれてる~」
「え、揺れてる?」
ふと紫紺に呼ばれました。
振り返ると今までハイハイしていた青藍の頭がこくりこくりと揺れています。そのままぺたりと突っ伏して眠ってしまいそう。