薄暗い空から真っ白な雪が音もなく舞い散って砂浜を覆っていく。
私たちの他に人がいない海は波の音だけが響いていた。

「寒ぃぃ！！」

「ははっ！由依の頬っぺた赤くなってるじゃん！」

ぶるぶる身体を震わせて笑いあいながら、砂浜に描がく足跡の相合傘に二人の名前を入れて完成させた。

「俺らってベタなカップル」

絵を覗きこむ拓海が嬉しそうに笑う。

私は拓海の目尻をさげて笑ってる顔が好きだった。

「なんか足りないな⋯」

ふたりで作った相合傘の相合に大きなハートマークを私は書き加えた。

「これでほんとに完成！！」

ふと、満足気に顔をあげて拓海を見ると視線がぶつかった。
ゆっくりと顔が近づいて、そっと私のくちびるにキスをする。

ふわっと冷たい感触がくちびるから離れると、口から白い息が漏れた。
じっと見つめ合っていると何だかそれがおかしくて、ふたりして声をあげて笑った。

「冬の海ってなんか暗くて濁ってて、少し寂しい感じがする。やっぱり寒い！！」

マフラーに顔をうずめても凍えるような寒さに歯が震える私の横で、拓海は平気な顔をしている。

「夏と違って綺麗じゃないけど、俺は寂しそうな海も寒いのも好き。だって、ふたりでいたら寂しくないし温かいだろ！！」

無邪気に笑って拓海が私に抱きつく。

「ほんとだ！温かいね！」

ぎゅーっと抱きつき返すと、拓海は私の頬にキスをした。

「ちょっと、くすぐったいよぉ！あははっ」

ふたりで笑ってじゃれ合い、抱き合ったまま海を見つめた。

「ね！お腹すいた！ご飯食べに行こ！」

「どこ行く？」

聞いてくる拓海は悩む私の手を取って走り出す。

「ラーメン！！」

拓海が嬉しそうに言った。

「またラーメン！？」

聞いてきたくせに⋯。

少し呆れた顔をした私の手にきゅと力を込める拓海に観念して、分かったと答えるように手を握り返した。

振り返ると砂浜に残った相合傘の足跡は波によって少しずつ消されはじめていた。

私は寒いのが苦手なはずだったのに、寒いのも悪くないなと思いはじめてた。

だって拓海がいるだけで温かかったし、幸せだった。

ずっと、こんな日々が続くと信じてた十六歳の冬。

灰色の海も波音も雪も拓海と見る景色は、全てがキラキラと輝きをまして見えていた。