渋々下車して会社へ向かっていると、あの交差点が見えていた。
自分が死んだ交差点を直視することができず、美保は早足で通り過ぎた。

少し行けば歩道橋があるから、そこを渡ればいい。
そう、元々そうしていれば交通事故に遭って死ぬようなこともなかったのだ。

ぼーっとしているくせに横断歩道を歩くから。

なんて自虐的な思考を繰り広げていると、歩道橋の階段で躓いてこけそうになってしまった。

どうにか出勤してきた美保を出迎えてくれたのは隣の席の平田一美だった。
一美も美保と同じ大学出身で、入社してからもずっと同じ部署で仕事をしている。

一美はオシャレで垢抜けているから大学時代にはあまり一緒にいた経験が無いけれど、社会人になってこうして仕事をしはじめてからはよく会話するようになっていた。

「美保おはよ。休日出勤なんて珍しいよねぇ」
デスクの上に手鏡を広げてリップを直しながら言う。