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大きな観覧車で夜景が見たい。
そう提案した死神が次に美保を誘ったのは夜の遊覧船だった。

ただの遊覧船ではなく、船の上でご飯を食べることができるらしい。

テレビや雑誌で見たことがあるくらいで、実際に乗船してみるのは美保にとっても初めての経験で、さすがに少しだけ緊張した。

「1人ですか?」
切符売り場のお兄さんにそう聞かれて美保はおずおずと頷く。

本当はふたりいるけれどひとりだと伝えることにまだ少し抵抗があった。
なんだか悪いことをしているような気分になる。

一人分のお金を支払って遊覧船を待っている人たちの列にならぶ。
「料理、私だけ食べていいのかな」

美保には死神の姿が見えているので、目の前でひとりだけ食事をするのもなんだか居心地が悪い気がする。

だけど死神はそんなこと気にしている様子は全くなくて、自分たちの乗船する番を今か今かと待っていたのだった。