「なに口説かれてんの」

 すっかりいつもの標準語に戻った彼にはっとする。

「あ……ごめんなさい」
「いいけど、別に。むしろ、邪魔しない方がよかった?」
「っ、な、なんで?」
「たのしそうにしてたから?」
「……してないってわかってるくせに」

 意地悪モード炸裂だ。困っているってわかって助けに入ったくせに。
 
「なんで濡れてんの?」
「あ……なんか水がかかって」
「? なんで?」
「転んだ? らしい。そこのコードにつまずいったって」
「へえ? で、ずっと下着見せてたってことか」
「…………え?」
 
 思わぬ指摘に勢いよくシャツを確認する。べっとりとはりついたシャツの向こうで、ついさっき撮影で来た桃色の水着が透けるように見えていた。

(っ……だから、なぞにお礼言われたりしたのか……)

 なんとなくあのとき掴めなかった話が見えてきて、来栖凪にかけられたブレザーをぎゅっと握りしめる。

「……下着じゃない」

 急いでたから水着から下着に着替えるのを忘れていた。しかもインナーすら忘れている。
 慌てすぎた……と反省していれば来栖凪が下からのぞきこんでくる。