「え、なにがですか?」
「いや、ちがうんです! 本当にわざとじゃなくて……! でも最高です!!!」

 噛み合わない。見事に合っていない。
 すると隣にいたもう一人の男がずいっと前に出てきては、

「あの、ずっと応援してて」

 と、話が思いもよらない方向へと飛んだ。

「え……? あ、……ありがとうございます」

 とっさに取り繕うものの、頬の筋肉が強張っていきそうで、それをなんとか持ち堪えるのに必死。
 なんて答えるのが一番角が立たないだろうか。こんなとき、瞬時に考えてしまうのだから、職業病とはおそろしい。
 たとえ仕事からすこし離れた瞬間でも、油断が命取りになることがある。
 相手が同じ世界の人間だとしても、いつどこかで火種を撒かれるがわからない。

「せっかくなので、もしよかったら友達からどうですか?」
「友達は、……新鮮ですね」

 へらりへらり。笑えば、向こうもへらへらと口角をあげる。

「ずっとファンだったんですよ。だから連絡先とか交換してほしいなあって」

 自分のかわいさを自覚しているのか、あざとさを全面に出しながら、がつがつと迫ってきて。その隣にいる子も「俺もいいっすか?」と便乗してくる。ついさっきまで顔をあれだけやっちまった感でたっぷりだったのに、今ではにやにやとしているのだから切り替えがはやい。

 どちらもやはり顔がいいのだけど、来栖凪と比べると差は歴然だ。どう考えても、来栖凪の顔面に勝る男子はなかなかいないらしい。
 ……いや、そもそも来栖凪がここで出てきたことがおかしいのだけど。