ドラマの撮影現場に到着しては、いそいで車からおり撮影セットへと向かっていく。その道中で——

「——っ」

 ひんやりと冷たいものがかけられ、ねっとりと肌にまとわりついたシャツに足を止めた。

「わ!!!! すみませんすみません!」

 目を剥き出しにし、ひどく申し訳なさそうな顔を浮かべた制服姿の男がふたり。一歩前を出ている男の片手には白い紙コップが握られていた。
 たしか、かっこいい男子高校生を決めるコンテストで優勝した子と、やたらその彼の事務所に猛プッシュされている子。どちらも、わたしよりは年下……というか、わたしより年上がいない現場だから、必然的に年下の子を相手にすることが多いのだけど。

「そこのコードにひっかかってしまって」

 おそらく、つまずいた衝撃で、紙コップの中の水が飛び出てしまい、運悪くわたしにかかったということらしい。

「……あ、ううん! 大丈夫です! 気にしないでください」

 役どころとしては、クラスメイトの役で、わたしの男友達という設定だ。実際にそういったシーンはまだ撮影もしていないし、直接こうして顔を合わせて話すのも初めてだった。 
 
(ここは穏便に、なんてことはない感じで終わらせるのが一番だろう、これから撮影がかぶることもあるし)

 にこりと。桜井うたとしての顔で微笑むと、ふたりの顔にはようやく安堵の色が灯る。

「本当すみませ——っ」
「? どうしました?」

 突然フリーズしたかのように止まるものだから、え、え、と困惑してしまうと、

「な、なんもないです! あの、えっと、ありがとうございます!!!!」

 とおもっきり頭を下げてくるものだから、ますます困惑が重なって軽いパニックになる。