「……こんばんは。お久しぶりでごめんなさい。配信をしていこうと思います」

 画面の向こうの見えない誰かに語りかけることが、わたしの生き甲斐だった。
 歌から離れても、たとえ表舞台に立って歌えなくても、これでいいとどこかで満足させようとしていた。
 歌が歌えればそれでいいと、そう思ってきたのに。

〝ゆぎ こんばんは、こころちゃん〟
〝大我 配信待ってました〟
〝ruru ゆらゆら、うたってくださーい〟

 わたしを求めてくれる声が、温かい水のように広がって、また涙が溢れた。
 流れていくコメントのひとつひとつが、わたしに向けられている声なのだと思うと、抱いたことのない感情で埋め尽くされていく。

 歌っていてもいいんだ、そう思えることがなによりもうれしかった。

「……あれ、聞いてくれてた人かな」

 配信を終え、アプリのマイページに飛ぶと、メッセージが一件届いていた。
 時々視聴してくれていた人からこうして連絡をもらうことはあったが、いざ中を開いてみると、どうにも固い文言ばかりが並んで凝視した。
 中身に書いてあったことは、とある事務所の社員だと名乗る女性で、要件は一度会って話を聞きたいということだった。

「……スカウト?」

 まさか配信をして声をかけてもらえるとは思ってもおらず、数時間返信の内容を考えた挙句、とりあえずお話を聞くだけならというスタンスで連絡を返した。