──壊れてしまいそうだった。

 わたしだけじゃなかったんだって、思い知らされるような気がした。
 来栖凪にとって、相手はだれでもよかったんだ。

 わたしは、大勢の女の子の一人でしかなかった。都合のいい女の子でしかなかった。

 特別に想ってもらえているんじゃないかと、そうどこかで思ってしまっていたから。だから今、こうして釘を刺されているんだ。
 わたしじゃなくても、来栖凪には別の女の子がたくさんいる。すぐに次を見つけられる。
 いい加減目を覚ませとだれかに言われているのかもしれない。
 お前は特別でもなんでもないんだぞと、そう言われているのだとしたら、わたしは本当に馬鹿だ。どこまでも馬鹿だったんだ。

「わたし、行きますね。おつかれさまです」

 二人に別れを告げて、振り返って、先を歩いて。

 数歩足を前に出してる間、ぼろぼろと涙がこぼれていった。

 涙が堪えきれなかった。泣いたってどうしようもないのに、わたしがただ馬鹿だっただけの話なのに。
 声を殺して、ただ足だけ動かして、あの二人に背を向けて。
 
 好きになんて、ならなきゃよかった。こんなとき、来栖凪を信じられないぐらいなら、好きになんてならなきゃよかったんだ。