「……え、なにそんな睨んでくんの。あ、まだ俺のこと敵対視してる?」
「今のはあなたにしたわけじゃないです。でも敵対視はしてます。ひどいこと言ってきてたの忘れませんから」

 さんざんわたしの仕事を下の見てきた発言は謝られたって許してはあげない。そう決めている。

「それはまあ、言い過ぎたところはあったよ。謝らないけど」
「っ、本当に性格悪いですね!」

 むきっと怒りを露わにしようと思ったけれど、

「でも、お詫びと言ってはなんだけど、今度のライブ見においでよ」
「……え?」
「あれ、聞いてない? ドラマの関係者呼んでる話」
「あ……それは聞きましたけど……、でもなんでそんな改まってお誘いを?」
「まあまあ、来たら分かるよ。あ、でも関係者席じゃないと分からないかも」
「……? なんの話?」
「こっちの話」
「こっちの話が多いですね、さっきから」
「いいから、黙っておいで」

 そう言われてしまうと、曖昧だけれど頷くしかない。
 あれだけわたしを貶してきたというのに、どういう心変わりだろうか。
 その後、何食わぬ顔で撮影に行ってしまうリョウを見送り、カスミくんは急遽事務所に戻らなければいけないと絶望に満ちた顔でわたしに告げにきたのだった。

 撮影現場から自宅に帰ろうと夢さんを待っていると、スタジオから甲高い声が聞こえる。
 見なくとも分かる。この声は佐原みなみだ。なんとも嬉しそうに、弾むような音がホールに響いていた。

「あ、ナギくん、待ってください。早いですよ~」

 聞き覚えのある名前に、自然と顔が後方へとつられてしまった。
 後ろから歩いてくるスタイル抜群の二人に目を瞠る。

「さっきの件はちゃんと水に流しますから。誰にも言いませんよ。キスのこと」
「──え」

 佐原まなみのその発言に、全身が固まってしまったように動かなかった。
 サングラス越しに、来栖凪と視線が絡んだような気がする。
 どういう、意味……だったのだろうか。