「もう、誰も好きにならないって心に決めたのに、また社長さんを好きになってしまって、その人には会社が契約を交わした取引先のお嬢さんとの結婚の話が進んでいたんです、だから私、会社辞めてその人の前から姿消したんです」

「だから東京へは帰りたくないんですね」

私は下を向きながら頷いた。

「立木さんが好きな人は桂木廉也?」

「えっ!」

先生の言った言葉に耳を疑った。

「うわ言のように名前呼んでたから、実は廉也と僕は知り合いなんです」

しばらく北山先生を見つめ、私は固まった。
北山先生はゆっくり廉也とのことを話し始めた。

「僕も東京からこの島に逃げてきたんです」

「えっ、先生がですか?」

「はい」

あの時東京の大学病院に勤めていた僕は、進むべき道が分からなくなり、途方に暮れていた、そんな時姉さんの勤務先にいた廉也と知り合った。

「俺、桂木廉也、ゆかりの弟なんだって?」

「はい、そうです、いつも姉がお世話になっています」

「ああ、俺が世話になってる方だから」