「あのう、相席よろしいでしょうか?」

彼女はゆっくりと顔を上げた。

その時、目にいっぱいの涙が溢れて頬を伝わった。

(なんて綺麗な涙なんだ)

俺は一瞬にして彼女に心を奪われた。

彼女は俺をじっと見つめて「私もう帰りますのでどうぞ」と言ってその場を去った。

彼女の座っていた席にスカーフが置きっぱなしになっていた。

俺は急いでそのスカーフを手に取り、彼女を追いかけた。

しかし、すでに彼女の姿はなかった。

「廉也様、お知り合いの方ですか?」

「いや、いいんだ」

俺は彼女の忘れたスカーフを握りしめて、これが彼女との最後なのかと悔やまれた。

でも諦めがつかない俺は、毎日彼女と巡り合った喫茶店に足を運んだ。

三十分から一時間ほどコーヒーを飲んで時間を潰した。

彼女は全くその喫茶店に姿を現さなかった。

(この辺りの人じゃないのか、偶々入った喫茶店で時間を過ごしていたのか、どうして泣いていたんだ、失恋か?それとも大切な人を亡くしたのか、まさか自殺なんて考えないよな)