車好きなのか妙に楽しそうに運転する本間さんと無言のドライブをして、私のマンションに帰ってきた。
 マンションの前に車を止めるのかと思えば、そのまま駐車場に入って行ってしまう。
 今まで必要なかったから、実はこのマンションの駐車場に立ち入るのは初めてだった。薄暗い駐車場の中をゆっくりと車が進んでいく。ゲスト用の駐車スペースがあるのか私は把握していなかったけれど、本間さんは迷うことなく空いた一角に駐車した。

「ありがとうございました」

 おじい様の命令とはいえ、送って貰ったのだからお礼を言う。気に入らないからとここで無視してしまうのも、目覚めが悪い。

「どういたしまして」

 微笑む本間さんに頭を下げると車を降りる。ドアを閉めると、反対側でもドアが閉まる音がした。
 車の屋根越しに本間さんと目が合った。

「ついてくる気ですか?」

「もちろん」

 思わず顔をしかめてしまう。
 どこまでついてくる気だろうと警戒しながらも、おじい様と繋がっていると思うと無下にも出来ない。
 私は可否を伝えないまま、歩き始めた。
 駐車場からエントランス内に入ってもまだついてくる。コンシェルジュも「おかえりなさいませ」と言うだけで、本間さんを止めることはない。オートロックも当然といった様子で一緒に通り抜けてきた。

「まだ一緒に来る気なんですか?」

「もちろん」

 私が睨みつけても涼しい顔でエレベーターに乗り込んでくる。
 さすがに、部屋の中にまで着いてこられては敵わない。
 住所ぐらいはとうに知られているだろうから、部屋のある階までは許容しよう。そのままエレベーターは下りずに、本間さんには帰ってもらおう。そう心に決めていると、本間さんが階数ボタンを押した。
 それは、私の住む階ではなかった。上層階のワンフロア一世帯、エレベーターが玄関に直結しているタイプの階だった。その階に止まるには、専用のカードキーがなければいけない。
 本間さんは懐から黒いカードキーを取り出すと、私が使ったことのないパネルにかざした。
 エレベーターがゆっくり動き出した。
 目を丸くしている私を見下ろして、本間さんが微笑む。
 エレベーターの中で二人っきり。
 婚姻届けにサインしただけの年の離れた私のダンナサマが笑う。

「ご存じですか? 夫婦には同居義務があるんですよ」