「よし!」
はしたないとわかっていても、思わずガッツポーズが出てしまった。
受験番号と生年月日を入力してオンラインで行った合否照会。
ノートパソコンのディスプレイに表示されているのは、蓬莱公子という私の名前と気の利いた桜のイラスト。
そしてもちろん『合格』の二文字。
この二文字を見るために、私は長年努力してきた。
最難関国立大学の合格を目指して逆算。
年単位月単位一日単位のスケジュールを立てて、ルーティーン化することでスケジュールを立てる時間さえ全て勉強に当ててきた。
体調を崩したら元も子もないので、睡眠時間の確保など体調管理も欠かさずに。
それを将来を定めた中学の頃から続けてきた。
やっと努力が実を――ううん、まだまだ実を結ぶには程遠い。私の夢はやっと芽吹いたところ。合格はゴールじゃない。やっとスタート地点に立てただけのこと。
マウスを握る手が汗ばんでいることに気が付いて、私は話した手を軽く握ったり開いたりする。
呼吸も浅くなっていた。胸に手を当てて、深呼吸をする。
その瞬間、ノートパソコンの横に置いたスマートフォンが着信音を鳴らした。
パソコンのディスプレイからスマートフォンのディスプレイに視線が移る。液晶に表示されているのは『おじい様』の文字。それを見た瞬間、頬が引きつる。
頭から冷水を被せられた気分だった。
「もしもし、おじい様?」
赤いアイコンに伸びそうな指をなだめて応答する。
冷えた頭で私の唯一の身内であるおじい様の好む口調で私は話す。
「ええ、もちろん合格していましたわ。約束、きちんと守ってくださいますわね?」
監視カメラでも設置されているんじゃないかっていうぐらいのタイミングで合否の確認をしてくる。
第一希望以外に合格すれば進学を許可して費用も出してくれる約束だった。逆を言えば、最難関国立大学に合格しなければ進学は一切認められない。
まさか合格するとは思っていなくてごねられるのではと思ったけれど、返ってきたのは『おめでとう』の言葉だった。
「え、今からですか? 構いませんが、自宅なので一時間ぐらいかかりますよ?」
話したいことがあるから、今すぐオフィスに来いという。
おじい様――私の父方の祖父は、ホテル王だった。正確には高級旅館を多く営む蓬莱グループの社長。旅館以外にも不動産を多数所有していて、私が一人で暮らすこの広すぎるマンションもおじい様が私に与えたものだった。
女には務まらんと言っておじいさまは私に仕事を継がせる気はないみたいで、オフィスに呼ばれることなんて滅多になかった。それが、いくらでも待つから来いと言う。
嫌な予感しかしなかったけれど、私にNOを言う権利はなかった。
おじい様は敏腕社長である一方ワンマン社長でパワハラ気質がある。最近は丸くなったとか言われているけど、それもコンプライアンスを兼ね合う損得計算の上だと私は知っている。
いつも着物なこともあって、私の印象としては横暴なタヌキじじいだった。
小六のときに事故死した両親に変わって育ててくれた恩はあるけれど、それはそれ、これはこれ。おじい様の機嫌を損ねれば私はこのマンションを追い出されて、進学どころではなくなってしまう。
承諾の返事をして電話を切ると、無意識にため息が出ていた。
はしたないとわかっていても、思わずガッツポーズが出てしまった。
受験番号と生年月日を入力してオンラインで行った合否照会。
ノートパソコンのディスプレイに表示されているのは、蓬莱公子という私の名前と気の利いた桜のイラスト。
そしてもちろん『合格』の二文字。
この二文字を見るために、私は長年努力してきた。
最難関国立大学の合格を目指して逆算。
年単位月単位一日単位のスケジュールを立てて、ルーティーン化することでスケジュールを立てる時間さえ全て勉強に当ててきた。
体調を崩したら元も子もないので、睡眠時間の確保など体調管理も欠かさずに。
それを将来を定めた中学の頃から続けてきた。
やっと努力が実を――ううん、まだまだ実を結ぶには程遠い。私の夢はやっと芽吹いたところ。合格はゴールじゃない。やっとスタート地点に立てただけのこと。
マウスを握る手が汗ばんでいることに気が付いて、私は話した手を軽く握ったり開いたりする。
呼吸も浅くなっていた。胸に手を当てて、深呼吸をする。
その瞬間、ノートパソコンの横に置いたスマートフォンが着信音を鳴らした。
パソコンのディスプレイからスマートフォンのディスプレイに視線が移る。液晶に表示されているのは『おじい様』の文字。それを見た瞬間、頬が引きつる。
頭から冷水を被せられた気分だった。
「もしもし、おじい様?」
赤いアイコンに伸びそうな指をなだめて応答する。
冷えた頭で私の唯一の身内であるおじい様の好む口調で私は話す。
「ええ、もちろん合格していましたわ。約束、きちんと守ってくださいますわね?」
監視カメラでも設置されているんじゃないかっていうぐらいのタイミングで合否の確認をしてくる。
第一希望以外に合格すれば進学を許可して費用も出してくれる約束だった。逆を言えば、最難関国立大学に合格しなければ進学は一切認められない。
まさか合格するとは思っていなくてごねられるのではと思ったけれど、返ってきたのは『おめでとう』の言葉だった。
「え、今からですか? 構いませんが、自宅なので一時間ぐらいかかりますよ?」
話したいことがあるから、今すぐオフィスに来いという。
おじい様――私の父方の祖父は、ホテル王だった。正確には高級旅館を多く営む蓬莱グループの社長。旅館以外にも不動産を多数所有していて、私が一人で暮らすこの広すぎるマンションもおじい様が私に与えたものだった。
女には務まらんと言っておじいさまは私に仕事を継がせる気はないみたいで、オフィスに呼ばれることなんて滅多になかった。それが、いくらでも待つから来いと言う。
嫌な予感しかしなかったけれど、私にNOを言う権利はなかった。
おじい様は敏腕社長である一方ワンマン社長でパワハラ気質がある。最近は丸くなったとか言われているけど、それもコンプライアンスを兼ね合う損得計算の上だと私は知っている。
いつも着物なこともあって、私の印象としては横暴なタヌキじじいだった。
小六のときに事故死した両親に変わって育ててくれた恩はあるけれど、それはそれ、これはこれ。おじい様の機嫌を損ねれば私はこのマンションを追い出されて、進学どころではなくなってしまう。
承諾の返事をして電話を切ると、無意識にため息が出ていた。