The previous night of the world revolution8~F.D.~

…そんな訳なので。





「こんにちはー。ルレイアがちょっと通りますよー」

死神の鎌片手に、『ブルーローズ・ユニオン』本部にお邪魔。

玄関回るの面倒だったんで、壁破壊して入っちゃいました。テヘペロ。

「あのな、ルレイア…。お前、仮にも同じ『青薔薇連合会』の本部に…」

一緒についてきたルルシーが、複雑な顔でそう言っていたが。

「良いじゃないですか、派手な登場で。こんな登場の仕方、ルレイア師匠にしか出来ませんからね。誰が来たのかすぐに分かりますよ」

「何より分かりやすい挨拶だな」

更に、そのルルシーの後ろから、ルーチェスとルリシヤもやって来た。

いつメンで、『ブルーローズ・ユニオン』本部に潜入。

いつもなら、シュノさんやアリューシャが後方支援に回ってくれる役割ですが…。

今回はただ、セルテリシアと「お話」をしに来ただけで、別に『ブルーローズ・ユニオン』本部に殴り込みに来た訳じゃないので。

今日は平和的に行きましょう。

「さーて。セルテリシアさんは何処ですかねー」

「…既に阿鼻叫喚の様相を呈してるけどな…」

え、ルルシー何か言いました?

…すると。

「お前達…!一体何をしに来た?」

おっ。

セルテリシアの腰巾着その1、エペルとかいう『ブルーローズ・ユニオン』の幹部がお出迎え。

どうも、久し振りですね。

「あ、こんにちは。元気でした?いやぁ今日は良いお天気ですねー。髪切りました?」

「…鎌振りながら言うことじゃねぇだろ、それ…」

え?ルルシー何か言いました?

俺はただ、久し振りに会った知人に、気軽に挨拶しただけなのに。

エペルは、まるで不法侵入者でも見るかのような眼差しで、俺達を睨んできた。

「一体どういうつもりだ?我々と袂を分かち、セルテリシア様のお命を狙って…!」

え、何言ってるのこの人。

被害妄想激し過ぎません?きっと疲れてるんですよ。

「小娘の命なんて要りませんよ。俺はただ、ちょっとした…そうですね、世間話をしに来ただけで…」

「そうそう。僕達、同じ『青薔薇連合会』の仲間じゃないですか。友好的にお話しましょうよ」

「その通りだ。ついこの間まで俺達も『ブルーローズ・ユニオン』の幹部だったからな。謂わば元同僚だ。旧交を温めようじゃないか」

「…セルテリシアを陥れた三人衆が、何を揃って白々しいこと言ってんだ?」

もー、ルルシーったら。

それは言わないお約束でしょ。
俺達が訪ねてきた時、セルテリシアは丁度、地方にある『ブルーローズ・ユニオン』の支部を視察に行っていたらしいのだが。

本部に俺達が「仲良く」訪ねてきたことを知り。

『ブルーローズ・ユニオン』代表、セルテリシア・リバニーその人が、すぐさま本部に戻ってきた。

「お、お待たせしましたっ…。ルレイアさん、それに…幹部の皆さんも…」

何故か焦ったような表情のセルテリシア。

「いやいや、良いんですよ。ちょっとお喋りしに来ただけなんで。気になさらず」

「…帰ってきたら本部の壁を破壊されてんだから、嫌でも気になるだろ」

ちょっとルルシー。横で何呟いてるんですか。

まるで俺が悪いみたいに言わないでください。

「あっ、そうだ手土産も持ってきたんですよ。良かったらどうぞ」

ルーチェスが、持参した手土産の紙袋をセルテリシアに差し出した。

「あ…え、えぇと、あ、ありがとうございます…?」

何で疑問形なんですか?素直に喜んでくださいよ。

「美味しいですよ、それ。ルレイア師匠の経営する『ブラック・カフェ』の今月の新商品、ブラックロールケーキです」

勿論、生地もクリームも中に入ってるフルーツも、全て真っ黒なスペシャルロールケーキである。

「ぶ、ブラック…?」

「はい。こちらはシェルドニアコウモリの脳みそをすり潰して、生地とクリームにたっぷりと…」

「こっ、コウモリの…脳みそ…!?」
 
セルテリシアさんの顔色が、サッと変わった。

「…俺、そんなに驚くようなこと言いました?」

「い、い、いや…その…」

「…コウモリの脳みそ食べさせられそうになったら、誰でもそうなるだろ」

ルルシー、今何か言いました?

ちょっとよく聞こえませんでしたね。

きっと、「何それ、美味しそう!」って言ってくれたんでしょうね。そうに違いない。

セルテリシアの横に立ってる側近のエペルとミミニアも、物凄い行相してるし。

「是非、皆さんで一緒に食べてくださいね」

「ひ、ひぇっ…」

俺がこんなにも、にこやかに微笑んでいるというのに。

何でそんな怯えた表情なんですかね。

きっと気の所為ですね。うん、そうに違いない。

「そ、それよりも…」

それよりもって何ですか?

「その…今日は一体、どういった用件で…」

「あぁそうだ。忘れるところでした。全くしらばっくれてんじゃないですよ。誤魔化そうとしてもそうは行きませんからね」

「別にしらばっくれてはないだろ」

ちょっとルルシー。マジレスやめてください。

「これは真面目な話なんですよ?」

「どの口で言ってんだ。まず、お前が真面目になれ」

失礼な。俺はいつだって真面目一筋に生きてますよ。ねぇ?

ルティス帝国広しと言えども、俺ほど真面目な人間はいませんよ。

礼儀正しいですしね。いつでも。
そこで、超真面目で礼儀正しい俺は。

テーブルの上に、例のジュエリーボックスを放り出した。

これが目に入らぬか、とばかりに。

「…それは…?」

「ご存知ですか。…『ローズ・ブルーダイヤ』」

「…!」

その驚いた表情。

どうやら、あながち無知な小娘という訳ではないようですね。

説明する手間が省けて有り難いですよ。

「き…聞いたことはあります。でも、本当に実在するとは…」

「そうですか」

「こ…これが、そうなんですか…?」

さぁ。俺も中身を見た訳じゃないですから、何とも言えませんが。

「そうだと言われています。とある筋から渡ってきました」

『オプスキュリテ』の名前は出さなかった。

だって、もうジュリスさんには関係ない話だから。

「何故そのようなものが…ここに…?」

「…それはこっちの台詞ですよ」

「…っ…」

軽く殺気を漂わせてやると、セルテリシアの顔が一瞬にして引き攣った。

隣りにいるエペルとミミニアも、緊張の面持ちだった。

ビビってくれてるようで結構。

「よくもふざけたことをしてくれましたね。俺達を盗っ人に仕立て上げようとは。…アシュトーリアさん暗殺に失敗したら、次はこれですか?」

「ま…待ってください」

「待ちませんよ。同じ組織と言えども、これは俺達を陥れ、冒涜する行為です。…ただで済むとは思ってませんよね?」

これ見よがしに鎌の柄を強く握ると、セルテリシアは怯えた表情で、

「待ってください…!」

青ざめながらも、再度そう繰り返した。

これが素人の小娘だったら、怯えて声も出ないところだったでしょうから。

必死に抗弁しようとする辺り、セルテリシアもそこそこ根性があると言って良い。

まぁ、俺を相手にビビり散らしてる様は間抜けですけど。

「何か誤解しているようです。私は…私は何も指示していません。あなた方を陥れるようなことは…」

「どうやって信用しろと?」

「本当のことです…!…何より、あなた方を陥れる為に『ローズ・ブルーダイヤ』を盗んだことが発覚したら、『ブルーローズ・ユニオン』だって無事では済みません」

「…」

「あなた方のみならず、自分達の首まで絞めるような愚かな真似は、絶対にしません…!誰に誓っても良いです」

…ふーん。

青ざめて泣きそうな顔だが、俺を前にそこまで言えるとは。

腐っても、『ブルーローズ・ユニオン』のリーダーということですね。

更に。

「セルテリシア様は、『ローズ・ブルーダイヤ』に手を出すようなことはなさらない。そのような指示は出していない…!我々が保証する」

「その通りです。大体、ダイヤが本当に実在していたことさえ、今知ったばかりなのに…」

セルテリシアの側近二人も、自分達の主君を庇うようにそう言った。

…あっそ。

どうやら…鎌掛けには引っ掛からなかったみたいですね。

「大丈夫ですよ。あなたが無実だってことは知ってますから」

「…えっ?」

俺は、あっさりと殺気を消した。

そんなことだろうと思ってたから、驚くに値しませんね。
「本気で疑っちゃいませんよ。鎌を掛けただけです」

「えっ…」 

分かってましたよ。セルテリシアに、そんなことする度胸はないってことくらい。

でも、万が一ってこともあるだろう?

だから、敢えて疑いをかけて、セルテリシアの反応を観察させてもらった。

案の定、セルテリシアはシロだったようですね。

「か、鎌を…そ、そうですか…」

「…っ…」

セルテリシアはぽかんとしていたが、騙されていたと分かったエペルとミミニアは、何か言いたそうな顔だった。

ふっ、残念でしたね。

これがマフィアの…俺のやり口ですよ。

…それに。

「誤解しないでください。俺だって、理由もないのにあなた方を疑ってる訳じゃないんですよ」

「ど…どういうことですか?」

「そのダイヤ、カミーリア家から盗み出されたものらしいんですけど」

「盗み出された…!?」

驚きのあまり、目を見開くセルテリシア。

演技で出来る顔じゃない。本気で驚いている顔だ。

ってことはやはり、セルテリシアさんはシロなんですね。

「『ローズ・ブルーダイヤ』を盗むなんて…!一体、誰がそのようなことを…」

「あなたですよ、セルテリシアさん」

「…え?」

間抜けな顔をありがとうございます。

「『ブルーローズ・ユニオン』の構成員が、カミーリア家の宝物庫に侵入して、このダイヤを盗み出してきたそうです」

「…!?」

「果たして何がしたかったのか。単に金が目的なのか、それとも『青薔薇連合会』…アシュトーリアさんを陥れたかったのか…」

「ま…待ってください…!」

待ちませんよ。

「『ブルーローズ・ユニオン』の犯行。ってことは、あなたが部下に指示してやらせたんじゃないかと思って、こうして確かめに来たと…」

「待ってください…!私はそんなこと指示していません!」

そうですか。でしょうね。

そんな青ざめて叫ばなくても分かってますよ。あなたの指示じゃないことは。

でも、だからって「私が指示したんじゃないから無関係です」とは言わせませんよ。

「指示してようとなかろうと、あなたの部下の犯行だってことは間違いないんですよ」

「そんなこと…!一体誰から聞いたんですか?その方が間違っているんです」

ジュリスさんのことですか?

彼は嘘をつかない。ただ、彼のもとに『ローズ・ブルーダイヤ』を持ってきた『ブルーローズ・ユニオン』の構成員…とやらが嘘をついている可能性はある。

…とはいえ。

「この際、誰が犯人かどうかは問題じゃないんです」

「…え…?」

「『ローズ・ブルーダイヤ』だと思われる宝石が、今俺達の手元にある。これが問題なんです」

「…」

あなたも気づいたようですね。セルテリシアさん。

事の重大さというものが。
セルテリシアは、じっとテーブルの上のジュエリーボックスを見つめた。

…そして。

「…ルレイアさん。私は誓って、部下に『ローズ・ブルーダイヤ』を盗み出すように指示していません。あなた方を陥れるようなこと、『青薔薇連合会』の名に傷をつけるようなことは…一切していません」

「そうですか」

「ですが、私の部下が、独断で『ローズ・ブルーダイヤ』を盗み出したのなら…その責任は、私が取らなければなりません」

…ほう?

セルテリシアは怯えた表情の奥に、決意を固めた眼差しでこちらを見つめていた。

「私が…私が責任を持って、『ローズ・ブルーダイヤ』をカミーリア家の方々にお返しします」

「…!セルテリシア様…!」

側近のミミニアが、驚愕に目を見開いてセルテリシアを制止した。

「いけません…!そのようなことをしてら、セルテリシア様が咎めを受けることに…」

「私の部下が行ったことなら、私がその責任を取らなければなりません」

へぇ。

殊勝な心掛けじゃないか。部下に責任をなすりつけることしか考えてない、ローゼリア元女王にも聞かせてやりたい。

「勿論、犯人は必ず見つけ出します。その上で、責任を持ってダイヤをカミーリア家の方々に返します。決して、ルレイアさん達に迷惑は…」

「既に迷惑、かけられまくってますけどね」

「…それは…返す言葉もありません」

分かっているならよろしい。

一見小娘に見えて、確かに小娘なんだけど、一応これでも、人の上に立つ者としての最低限の資質は備えているらしい。

先日の件で俺に手酷くやられて、少しは成長したか?

…でも。

残念ながら、事態はもう、セルテリシアが謝罪して全てが丸く収まる、という段階を越えている。
 
「大変殊勝な心掛けで結構ですが、残念ながら、あなたが謝る程度じゃ済みませんよ」

「…え…?」

セルテリシアがいかに謝罪しようとも、『ブルーローズ・ユニオン』の犯行だとバレた時点で。

『青薔薇連合会』の名に傷がつく。最悪、裏社会における『青薔薇連合会』の地位を揺るがしかねない。

お偉い上級貴族様は、総じて、裏社会のマフィアだの地下組織だのは、薄汚いチンピラの集まりだと思っている。

ハナから俺達を見下している。

自分も貴族だったから、よく分かる。貴族連中が俺達マフィアのことをどう思っているのかは。

セルテリシアが謝罪したって、素直に聞き入れて許してくれるとは思えない。

むしろ、「お前ら全員ブタ箱に叩き込んでやる」とブチギレるんじゃないだろうか。

こちらの事情など加味してくれない。

路地裏のネズミが謝ってきたって、聞き入れるはずがないだろう?それと同じだ。

ネズミは一匹残らず捕まえて駆除。当然のことだ。

「ルリシヤ。…カミーリア家の動きは?それに、帝国騎士団は」

俺は、ルルシーの反対隣に座っているルリシヤに声をかけた。

ルリシヤはタブレット端末を操作しながら、

「ふむ…。今のところ変化はない。どうやら連中、宝物庫から『ローズ・ブルーダイヤ』が盗み出されたことに、まだ気づいてないようだな」

それもまた間抜けな話ですね。

大事にしまい込み過ぎて、なくなったことにも気づかないとは。

もう、そのまま一生紛失に気づかずに生涯を終えてくれませんかね。

「だが、彼らがダイヤの紛失に気づくのは時間の問題だろう。遠かれ早かれ、捜索が始まるはずだ」

「…でしょうね」

今日、今この瞬間に気づいて、捜索が始まってもおかしくないのだ。
…やはり、ここは俺の当初の計画を実行するしかなさそうですね。

「そんな…。一体、どうすれば…」

途方に暮れるセルテリシア。

青ざめた顔で、ぶるぶると震えている。

やれやれ。俺が泣かせたみたいじゃないですか。やめてくださいよ。

俺はベッドで女を啼かせるのは得意ですけど、泣かせるのは好きじゃないんですよ?

「…セルテリシアさん。あなたは、部下を全員首実験して、『ローズ・ブルーダイヤ』を盗んだという部下を見つけてください」

「えっ…?」

「そして、見つけたらすぐに、『青薔薇連合会』に…俺達のもとに連れてくること。それから、今回の任務でかかる全ての諸経費を負担すること。それが条件です」

「じょ、条件…?何のことですか?」

嬉しいお知らせですよ。あなたにとってはね。

「おい、ルレイア。どういうことなんだ?」

俺の意図を図りかねたルルシーが、横から口を挟んできた。

しかし、分かっていないのはセルテリシアとルルシーだけだったようで。

「ふむ、成程…。やるんだな、ルレイア先輩」
 
「さすがルレイア師匠。相変わらずやることが派手ですねー」

ルリシヤとルーチェスは、すぐさま俺の意図することに気づいたようだった。

さすが。分かってますねぇ。

「おい、お前ら。また自分達だけ先に理解して納得してるんじゃない。俺にも教えろ」

「簡単な話ですよ、ルルシー。カミーリア家は、まだダイヤの紛失に気づいていない…」

この厄介な宝石に手を出してしまったのは大問題だが。

しかし、まだバレていないのなら、やりようはある。

「だったら、気づかれる前にもとに戻すしかないでしょう?」

カミーリア家の馬鹿共が、ダイヤの紛失に気づく前に。

ダイヤを、カミーリア家の宝物庫に…本来あるべきところに戻す。

何事もなかったように。「私ずっとここにいましたよ?」と言わんばかりに。

『青薔薇連合会』の名誉を損なうことなく事態を収拾させるには、もうこれしかない。

そこで、このルレイア・ティシェリーが骨を折ってあげようと言うんですよ。
そうと決まれば、早速。

「ルーチェス。カミーリア家に女はいますか?」

「勿論。僕の記憶だと、確かカミーリア家には、中年の奥様と、更に年頃の娘が二人います」

「成程。それは僥倖でしたね」

まぁ、仮に女がいなかったとしても、男でも落とせる自信はありますけど。

やはり女の方が色んな意味で「やりやすい」ので、都合が良い。

夫婦生活にマンネリしてきた中年の女…。非常に狙い目。

更に、そこに年頃の娘までいるとは。

俺に狙ってくださいと言ってるようなものだ。

「確か、姉の方は二十歳そこそこ、妹は十代後半くらいですかね」

「それは素晴らしいですね」

個人的には、もう少し成熟した方が好きですけど。

そのくらいの年齢なら、充分狙い目だろう。

俺だって、中年のババァより、年若い女の方が「美味しい」ですからね。

「…おい。お前らさっきから、何の話してるんだ」

ルルシーは、ジト目でこちらを睨んでいた。

いやん。その表情も素敵。

「ルレイア、お前もしかして…」

そう、そのもしかしてですよ。

「『ローズ・ブルーダイヤ』をもとある場所に戻す…。その為には、疑われずにカミーリア家の宝物庫に入り込む必要があります」

「それは分かってる。でも、どうやって…」

…そんなの決まってるじゃないですか。

「カミーリア家に合法的に忍び込むには、カミーリア家の人間に取り入るのが一番手っ取り早い。ですよね?」

「…!お前、やっぱり…!」

…ふっ。ルルシーも気づいたようですね。

そうですよ。

「カミーリア家の女性をたぶらかすつもりか…!?」

「そんな、俺を悪者みたいに言わないでくださいよ。失礼な…。ちょっとハーレムの会員が増えるだけじゃないですか」

アリューシャじゃないけど、これがいつもの…俺の…日常ですよね?

俺のハーレムの会員になる、とっても幸せな女性が一人二人、増えるだけです。

俺も『ローズ・ブルーダイヤ』を返却出来るし、カミーリア家の女も俺のハーレムに入れるし。

誰も困らない、皆が幸せになるウィンウィンの計画ですよね。

いやぁ素晴らしい。

「さすがルレイア師匠。この危機的状況でも、誰もが幸せになって丸く収まる解決法を模索するとは…」

「あぁ。ルレイア先輩にしか出来ない、素晴らしい解決方法だ」

「…」

「…」

ルーチェスもルリシヤも褒めてくれたのに。

ルルシーとセルテリシアさんは、互いに「えぇ…」みたいな顔で無言だった。

きっと二人共、この超平和的な解決法に感心してくれてるんですね。そうに違いない。

「さて、そうと決まれば…。『青薔薇連合会』本部に帰って、ターゲットに接触する方法を考えましょうか」

「…こうして、またルレイア・ハーレムの犠牲者が増えていくんだな…」

ちょっとルルシー?犠牲者って何ですか。

俺は全員幸せにしてあげてるんだから、そう言われるのは大変心外ですね。
さて、『ブルーローズ・ユニオン』本部を後にして、『青薔薇連合会』本部に帰還。

俺は、先程話した「平和的手段」を、他の幹部達に話して聞かせよう…と、思ったのだが。

「あぁ、戻ったねルレイア。良かった、すぐに、今から支度してもらえるかな」

俺の顔を見るなり、アイズがそう言った。

…ほう?

「それと、これが招待状ね。場所は帝都の○○ホテル。私の名前を出せばすぐ入れるように手配しておいたから」

「ちょ、ちょっと待てアイズ。さっきから何の話だ?」

ルルシーが割って入り、アイズに尋ねた。

「だって、ルレイア。カミーリア家の御婦人かお嬢さんを落として、『ローズ・ブルーダイヤ』をカミーリア家に返しに行くんでしょう?」

「えっ…!アイズが何でそんなこと知ってるんだ…?」

まさか俺達とセルテリシアの話し合いを、盗み聞きしてた?って聞きたくなりますけど。

そうじゃないことは、よーく分かってますよ。

「さぁ。ただ、ルレイアならそうするかなって思っただけだよ」

「…!」

ルルシーが目を見開いて感心していると。

「アイズ、これ頼まれてた書類…。あっ、ルレイア。お帰り。戻ってきたのね」

「シュノさん。ただいま」

そこに、書類の束を抱えたシュノさんがやって来た。

シュノさんは、俺の姿を見るなり目を輝かせた。

俺達のいない間に、何やら動いてくれていたようですね。

「ありがとう、シュノ。その書類、ルレイアに渡してあげてくれる?」

「うん、分かった…。はいっ、ルレイア。これ」

「ありがとうございます、シュノさん」

俺の予想が正しかったら、この書類は…。

「ウチの情報班に調べさせた、カミーリア家の調査書。家族歴や、簡単な身辺調査もしてある」

やっぱり。

そうだと思いました。

「アイズ、お前…。いつの間に、こんなもの用意して…」

「必要になると思ったものだからね。昨日のうちに調べさせておいたんだ」

「…」

あまりのアイズの手際の良さに、ルルシーは目を丸くしていた。

さすがアイズ、と言ったところですか。

話が早くて助かりますよ。

「と言っても、さすがに時間が足りなかったから、表面的なところまでしか調べられなかったけどね…。詳しいことは今、調べさせてる最中だから。もう少し待ってもらえるかな」

「いいえ、これだけでも充分ですよ」

何なら、事前情報無しに相手を落とすことだってある訳で。

それに比べたら、少しでも先に情報を得られるのは有り難い。

…それから…。

「アイズ、さっき言ってた…ホテルかどうとか、招待状かどうとかいうのはどういうことなんだ?」

と、続けて尋ねるルルシー。

あぁ。さっき言ってましたね。

「カミーリア家のご婦人やご息女に近づく機会がないか、探ってみたんだけどね…。早速、今日の夜に、帝都のホテルでとある貴族のご当主…。ロベリア家っていう中級貴族なんだけど。知ってる?」

「えぇ。勿論聞いたことありますよ」

「そのロベリア家の当主の誕生パーティーが開かれるらしくて、そこにカミーリア家の次女が参加予定らしいんだ」

…ほう。

貴族のお誕生日会ですか。それはそれは。

だが、そこに今回の「ターゲット」が来てくれるなら、俺にとってはチャンスである。
「残念ながら確定情報じゃなくてね、本当に来るかどうかはまだ未確定なんだけど…」

「無理ないですよ。お貴族様の情報を探るのは、俺達マフィアにとっては畑違いですからね」

敵組織や企業の内情を探るのは、日常茶飯時だけど。

さすがに貴族のパーティーの出席名簿について、しかもこんな短時間で詳しく調べ上げろというのは無理な話。

ここまで調べてくれただけでも、充分です。

例え無駄足だったとしても、足を運ぶ価値がある。

「更に、その招待状を手に入れるのに骨を折ったよ。色々とツテを回って…。『frontier』に出資してる『R&B』社って知ってるよね?」

「えぇ。アイズの作った企業ですよね」

「そう、それ。そこの代表として、パーティーの招待状を何とか手に入れたんだ。私の代理人ということで参加してもらえるかな」

「分かりました」

この短期間で、貴族の誕生日パーティーの招待状をもぎ取るとは。

アイズの顔の広さを痛感しますね。

「アイズにそこまでしてもらったからには、俺も手柄をあげない訳にはいきませんね。速攻で落としてみせますよ」

「さすがルレイア師匠…。息をするようにハーレムの会員を増やすとは…。僕も見習わなきゃいけませんね」

「見習うな、ルーチェス。こんなのが二人も増えてたまるか」

ちょっとルルシー。こんなの、ってどういう意味ですか。

素敵なルレイアのようになりたい、って思うでしょう?

全国の子供達の憧れですから。俺。

「それとルレイア。お前が行くなら、俺も行くからな。一人で勝手に行くんじゃないぞ」

「え、ルルシーも来るんですか?」

「邪魔なのは分かってるよ。お前がその…仕事してる時は、離れて見てるよ」

…さては、貴族が集まるパーティーと聞いて、ルルシーの心配性スイッチが入りましたね。

全くもう。ルルシーったら、相変わらず心配性なんだから。

相手が女である限り、俺に落とせない相手は…まぁ、まず滅多にいませんよ。

ルヴィアさんの嫁みたいな、一部落とせない例外もいるのでね。

「分かりました。じゃあ、ルルシーは俺の御付きとして、一緒に来てくれますか?」

「あぁ。任せろ」

そうと決まれば、早速今夜の素敵なパーティーに参加する準備を始めるとしましょう。