…そんな訳なので。
「こんにちはー。ルレイアがちょっと通りますよー」
死神の鎌片手に、『ブルーローズ・ユニオン』本部にお邪魔。
玄関回るの面倒だったんで、壁破壊して入っちゃいました。テヘペロ。
「あのな、ルレイア…。お前、仮にも同じ『青薔薇連合会』の本部に…」
一緒についてきたルルシーが、複雑な顔でそう言っていたが。
「良いじゃないですか、派手な登場で。こんな登場の仕方、ルレイア師匠にしか出来ませんからね。誰が来たのかすぐに分かりますよ」
「何より分かりやすい挨拶だな」
更に、そのルルシーの後ろから、ルーチェスとルリシヤもやって来た。
いつメンで、『ブルーローズ・ユニオン』本部に潜入。
いつもなら、シュノさんやアリューシャが後方支援に回ってくれる役割ですが…。
今回はただ、セルテリシアと「お話」をしに来ただけで、別に『ブルーローズ・ユニオン』本部に殴り込みに来た訳じゃないので。
今日は平和的に行きましょう。
「さーて。セルテリシアさんは何処ですかねー」
「…既に阿鼻叫喚の様相を呈してるけどな…」
え、ルルシー何か言いました?
…すると。
「お前達…!一体何をしに来た?」
おっ。
セルテリシアの腰巾着その1、エペルとかいう『ブルーローズ・ユニオン』の幹部がお出迎え。
どうも、久し振りですね。
「あ、こんにちは。元気でした?いやぁ今日は良いお天気ですねー。髪切りました?」
「…鎌振りながら言うことじゃねぇだろ、それ…」
え?ルルシー何か言いました?
俺はただ、久し振りに会った知人に、気軽に挨拶しただけなのに。
エペルは、まるで不法侵入者でも見るかのような眼差しで、俺達を睨んできた。
「一体どういうつもりだ?我々と袂を分かち、セルテリシア様のお命を狙って…!」
え、何言ってるのこの人。
被害妄想激し過ぎません?きっと疲れてるんですよ。
「小娘の命なんて要りませんよ。俺はただ、ちょっとした…そうですね、世間話をしに来ただけで…」
「そうそう。僕達、同じ『青薔薇連合会』の仲間じゃないですか。友好的にお話しましょうよ」
「その通りだ。ついこの間まで俺達も『ブルーローズ・ユニオン』の幹部だったからな。謂わば元同僚だ。旧交を温めようじゃないか」
「…セルテリシアを陥れた三人衆が、何を揃って白々しいこと言ってんだ?」
もー、ルルシーったら。
それは言わないお約束でしょ。
俺達が訪ねてきた時、セルテリシアは丁度、地方にある『ブルーローズ・ユニオン』の支部を視察に行っていたらしいのだが。
本部に俺達が「仲良く」訪ねてきたことを知り。
『ブルーローズ・ユニオン』代表、セルテリシア・リバニーその人が、すぐさま本部に戻ってきた。
「お、お待たせしましたっ…。ルレイアさん、それに…幹部の皆さんも…」
何故か焦ったような表情のセルテリシア。
「いやいや、良いんですよ。ちょっとお喋りしに来ただけなんで。気になさらず」
「…帰ってきたら本部の壁を破壊されてんだから、嫌でも気になるだろ」
ちょっとルルシー。横で何呟いてるんですか。
まるで俺が悪いみたいに言わないでください。
「あっ、そうだ手土産も持ってきたんですよ。良かったらどうぞ」
ルーチェスが、持参した手土産の紙袋をセルテリシアに差し出した。
「あ…え、えぇと、あ、ありがとうございます…?」
何で疑問形なんですか?素直に喜んでくださいよ。
「美味しいですよ、それ。ルレイア師匠の経営する『ブラック・カフェ』の今月の新商品、ブラックロールケーキです」
勿論、生地もクリームも中に入ってるフルーツも、全て真っ黒なスペシャルロールケーキである。
「ぶ、ブラック…?」
「はい。こちらはシェルドニアコウモリの脳みそをすり潰して、生地とクリームにたっぷりと…」
「こっ、コウモリの…脳みそ…!?」
セルテリシアさんの顔色が、サッと変わった。
「…俺、そんなに驚くようなこと言いました?」
「い、い、いや…その…」
「…コウモリの脳みそ食べさせられそうになったら、誰でもそうなるだろ」
ルルシー、今何か言いました?
ちょっとよく聞こえませんでしたね。
きっと、「何それ、美味しそう!」って言ってくれたんでしょうね。そうに違いない。
セルテリシアの横に立ってる側近のエペルとミミニアも、物凄い行相してるし。
「是非、皆さんで一緒に食べてくださいね」
「ひ、ひぇっ…」
俺がこんなにも、にこやかに微笑んでいるというのに。
何でそんな怯えた表情なんですかね。
きっと気の所為ですね。うん、そうに違いない。
「そ、それよりも…」
それよりもって何ですか?
「その…今日は一体、どういった用件で…」
「あぁそうだ。忘れるところでした。全くしらばっくれてんじゃないですよ。誤魔化そうとしてもそうは行きませんからね」
「別にしらばっくれてはないだろ」
ちょっとルルシー。マジレスやめてください。
「これは真面目な話なんですよ?」
「どの口で言ってんだ。まず、お前が真面目になれ」
失礼な。俺はいつだって真面目一筋に生きてますよ。ねぇ?
ルティス帝国広しと言えども、俺ほど真面目な人間はいませんよ。
礼儀正しいですしね。いつでも。
そこで、超真面目で礼儀正しい俺は。
テーブルの上に、例のジュエリーボックスを放り出した。
これが目に入らぬか、とばかりに。
「…それは…?」
「ご存知ですか。…『ローズ・ブルーダイヤ』」
「…!」
その驚いた表情。
どうやら、あながち無知な小娘という訳ではないようですね。
説明する手間が省けて有り難いですよ。
「き…聞いたことはあります。でも、本当に実在するとは…」
「そうですか」
「こ…これが、そうなんですか…?」
さぁ。俺も中身を見た訳じゃないですから、何とも言えませんが。
「そうだと言われています。とある筋から渡ってきました」
『オプスキュリテ』の名前は出さなかった。
だって、もうジュリスさんには関係ない話だから。
「何故そのようなものが…ここに…?」
「…それはこっちの台詞ですよ」
「…っ…」
軽く殺気を漂わせてやると、セルテリシアの顔が一瞬にして引き攣った。
隣りにいるエペルとミミニアも、緊張の面持ちだった。
ビビってくれてるようで結構。
「よくもふざけたことをしてくれましたね。俺達を盗っ人に仕立て上げようとは。…アシュトーリアさん暗殺に失敗したら、次はこれですか?」
「ま…待ってください」
「待ちませんよ。同じ組織と言えども、これは俺達を陥れ、冒涜する行為です。…ただで済むとは思ってませんよね?」
これ見よがしに鎌の柄を強く握ると、セルテリシアは怯えた表情で、
「待ってください…!」
青ざめながらも、再度そう繰り返した。
これが素人の小娘だったら、怯えて声も出ないところだったでしょうから。
必死に抗弁しようとする辺り、セルテリシアもそこそこ根性があると言って良い。
まぁ、俺を相手にビビり散らしてる様は間抜けですけど。
「何か誤解しているようです。私は…私は何も指示していません。あなた方を陥れるようなことは…」
「どうやって信用しろと?」
「本当のことです…!…何より、あなた方を陥れる為に『ローズ・ブルーダイヤ』を盗んだことが発覚したら、『ブルーローズ・ユニオン』だって無事では済みません」
「…」
「あなた方のみならず、自分達の首まで絞めるような愚かな真似は、絶対にしません…!誰に誓っても良いです」
…ふーん。
青ざめて泣きそうな顔だが、俺を前にそこまで言えるとは。
腐っても、『ブルーローズ・ユニオン』のリーダーということですね。
更に。
「セルテリシア様は、『ローズ・ブルーダイヤ』に手を出すようなことはなさらない。そのような指示は出していない…!我々が保証する」
「その通りです。大体、ダイヤが本当に実在していたことさえ、今知ったばかりなのに…」
セルテリシアの側近二人も、自分達の主君を庇うようにそう言った。
…あっそ。
どうやら…鎌掛けには引っ掛からなかったみたいですね。
「大丈夫ですよ。あなたが無実だってことは知ってますから」
「…えっ?」
俺は、あっさりと殺気を消した。
そんなことだろうと思ってたから、驚くに値しませんね。
「本気で疑っちゃいませんよ。鎌を掛けただけです」
「えっ…」
分かってましたよ。セルテリシアに、そんなことする度胸はないってことくらい。
でも、万が一ってこともあるだろう?
だから、敢えて疑いをかけて、セルテリシアの反応を観察させてもらった。
案の定、セルテリシアはシロだったようですね。
「か、鎌を…そ、そうですか…」
「…っ…」
セルテリシアはぽかんとしていたが、騙されていたと分かったエペルとミミニアは、何か言いたそうな顔だった。
ふっ、残念でしたね。
これがマフィアの…俺のやり口ですよ。
…それに。
「誤解しないでください。俺だって、理由もないのにあなた方を疑ってる訳じゃないんですよ」
「ど…どういうことですか?」
「そのダイヤ、カミーリア家から盗み出されたものらしいんですけど」
「盗み出された…!?」
驚きのあまり、目を見開くセルテリシア。
演技で出来る顔じゃない。本気で驚いている顔だ。
ってことはやはり、セルテリシアさんはシロなんですね。
「『ローズ・ブルーダイヤ』を盗むなんて…!一体、誰がそのようなことを…」
「あなたですよ、セルテリシアさん」
「…え?」
間抜けな顔をありがとうございます。
「『ブルーローズ・ユニオン』の構成員が、カミーリア家の宝物庫に侵入して、このダイヤを盗み出してきたそうです」
「…!?」
「果たして何がしたかったのか。単に金が目的なのか、それとも『青薔薇連合会』…アシュトーリアさんを陥れたかったのか…」
「ま…待ってください…!」
待ちませんよ。
「『ブルーローズ・ユニオン』の犯行。ってことは、あなたが部下に指示してやらせたんじゃないかと思って、こうして確かめに来たと…」
「待ってください…!私はそんなこと指示していません!」
そうですか。でしょうね。
そんな青ざめて叫ばなくても分かってますよ。あなたの指示じゃないことは。
でも、だからって「私が指示したんじゃないから無関係です」とは言わせませんよ。
「指示してようとなかろうと、あなたの部下の犯行だってことは間違いないんですよ」
「そんなこと…!一体誰から聞いたんですか?その方が間違っているんです」
ジュリスさんのことですか?
彼は嘘をつかない。ただ、彼のもとに『ローズ・ブルーダイヤ』を持ってきた『ブルーローズ・ユニオン』の構成員…とやらが嘘をついている可能性はある。
…とはいえ。
「この際、誰が犯人かどうかは問題じゃないんです」
「…え…?」
「『ローズ・ブルーダイヤ』だと思われる宝石が、今俺達の手元にある。これが問題なんです」
「…」
あなたも気づいたようですね。セルテリシアさん。
事の重大さというものが。
セルテリシアは、じっとテーブルの上のジュエリーボックスを見つめた。
…そして。
「…ルレイアさん。私は誓って、部下に『ローズ・ブルーダイヤ』を盗み出すように指示していません。あなた方を陥れるようなこと、『青薔薇連合会』の名に傷をつけるようなことは…一切していません」
「そうですか」
「ですが、私の部下が、独断で『ローズ・ブルーダイヤ』を盗み出したのなら…その責任は、私が取らなければなりません」
…ほう?
セルテリシアは怯えた表情の奥に、決意を固めた眼差しでこちらを見つめていた。
「私が…私が責任を持って、『ローズ・ブルーダイヤ』をカミーリア家の方々にお返しします」
「…!セルテリシア様…!」
側近のミミニアが、驚愕に目を見開いてセルテリシアを制止した。
「いけません…!そのようなことをしてら、セルテリシア様が咎めを受けることに…」
「私の部下が行ったことなら、私がその責任を取らなければなりません」
へぇ。
殊勝な心掛けじゃないか。部下に責任をなすりつけることしか考えてない、ローゼリア元女王にも聞かせてやりたい。
「勿論、犯人は必ず見つけ出します。その上で、責任を持ってダイヤをカミーリア家の方々に返します。決して、ルレイアさん達に迷惑は…」
「既に迷惑、かけられまくってますけどね」
「…それは…返す言葉もありません」
分かっているならよろしい。
一見小娘に見えて、確かに小娘なんだけど、一応これでも、人の上に立つ者としての最低限の資質は備えているらしい。
先日の件で俺に手酷くやられて、少しは成長したか?
…でも。
残念ながら、事態はもう、セルテリシアが謝罪して全てが丸く収まる、という段階を越えている。
「大変殊勝な心掛けで結構ですが、残念ながら、あなたが謝る程度じゃ済みませんよ」
「…え…?」
セルテリシアがいかに謝罪しようとも、『ブルーローズ・ユニオン』の犯行だとバレた時点で。
『青薔薇連合会』の名に傷がつく。最悪、裏社会における『青薔薇連合会』の地位を揺るがしかねない。
お偉い上級貴族様は、総じて、裏社会のマフィアだの地下組織だのは、薄汚いチンピラの集まりだと思っている。
ハナから俺達を見下している。
自分も貴族だったから、よく分かる。貴族連中が俺達マフィアのことをどう思っているのかは。
セルテリシアが謝罪したって、素直に聞き入れて許してくれるとは思えない。
むしろ、「お前ら全員ブタ箱に叩き込んでやる」とブチギレるんじゃないだろうか。
こちらの事情など加味してくれない。
路地裏のネズミが謝ってきたって、聞き入れるはずがないだろう?それと同じだ。
ネズミは一匹残らず捕まえて駆除。当然のことだ。
「ルリシヤ。…カミーリア家の動きは?それに、帝国騎士団は」
俺は、ルルシーの反対隣に座っているルリシヤに声をかけた。
ルリシヤはタブレット端末を操作しながら、
「ふむ…。今のところ変化はない。どうやら連中、宝物庫から『ローズ・ブルーダイヤ』が盗み出されたことに、まだ気づいてないようだな」
それもまた間抜けな話ですね。
大事にしまい込み過ぎて、なくなったことにも気づかないとは。
もう、そのまま一生紛失に気づかずに生涯を終えてくれませんかね。
「だが、彼らがダイヤの紛失に気づくのは時間の問題だろう。遠かれ早かれ、捜索が始まるはずだ」
「…でしょうね」
今日、今この瞬間に気づいて、捜索が始まってもおかしくないのだ。
…やはり、ここは俺の当初の計画を実行するしかなさそうですね。
「そんな…。一体、どうすれば…」
途方に暮れるセルテリシア。
青ざめた顔で、ぶるぶると震えている。
やれやれ。俺が泣かせたみたいじゃないですか。やめてくださいよ。
俺はベッドで女を啼かせるのは得意ですけど、泣かせるのは好きじゃないんですよ?
「…セルテリシアさん。あなたは、部下を全員首実験して、『ローズ・ブルーダイヤ』を盗んだという部下を見つけてください」
「えっ…?」
「そして、見つけたらすぐに、『青薔薇連合会』に…俺達のもとに連れてくること。それから、今回の任務でかかる全ての諸経費を負担すること。それが条件です」
「じょ、条件…?何のことですか?」
嬉しいお知らせですよ。あなたにとってはね。
「おい、ルレイア。どういうことなんだ?」
俺の意図を図りかねたルルシーが、横から口を挟んできた。
しかし、分かっていないのはセルテリシアとルルシーだけだったようで。
「ふむ、成程…。やるんだな、ルレイア先輩」
「さすがルレイア師匠。相変わらずやることが派手ですねー」
ルリシヤとルーチェスは、すぐさま俺の意図することに気づいたようだった。
さすが。分かってますねぇ。
「おい、お前ら。また自分達だけ先に理解して納得してるんじゃない。俺にも教えろ」
「簡単な話ですよ、ルルシー。カミーリア家は、まだダイヤの紛失に気づいていない…」
この厄介な宝石に手を出してしまったのは大問題だが。
しかし、まだバレていないのなら、やりようはある。
「だったら、気づかれる前にもとに戻すしかないでしょう?」
カミーリア家の馬鹿共が、ダイヤの紛失に気づく前に。
ダイヤを、カミーリア家の宝物庫に…本来あるべきところに戻す。
何事もなかったように。「私ずっとここにいましたよ?」と言わんばかりに。
『青薔薇連合会』の名誉を損なうことなく事態を収拾させるには、もうこれしかない。
そこで、このルレイア・ティシェリーが骨を折ってあげようと言うんですよ。
そうと決まれば、早速。
「ルーチェス。カミーリア家に女はいますか?」
「勿論。僕の記憶だと、確かカミーリア家には、中年の奥様と、更に年頃の娘が二人います」
「成程。それは僥倖でしたね」
まぁ、仮に女がいなかったとしても、男でも落とせる自信はありますけど。
やはり女の方が色んな意味で「やりやすい」ので、都合が良い。
夫婦生活にマンネリしてきた中年の女…。非常に狙い目。
更に、そこに年頃の娘までいるとは。
俺に狙ってくださいと言ってるようなものだ。
「確か、姉の方は二十歳そこそこ、妹は十代後半くらいですかね」
「それは素晴らしいですね」
個人的には、もう少し成熟した方が好きですけど。
そのくらいの年齢なら、充分狙い目だろう。
俺だって、中年のババァより、年若い女の方が「美味しい」ですからね。
「…おい。お前らさっきから、何の話してるんだ」
ルルシーは、ジト目でこちらを睨んでいた。
いやん。その表情も素敵。
「ルレイア、お前もしかして…」
そう、そのもしかしてですよ。
「『ローズ・ブルーダイヤ』をもとある場所に戻す…。その為には、疑われずにカミーリア家の宝物庫に入り込む必要があります」
「それは分かってる。でも、どうやって…」
…そんなの決まってるじゃないですか。
「カミーリア家に合法的に忍び込むには、カミーリア家の人間に取り入るのが一番手っ取り早い。ですよね?」
「…!お前、やっぱり…!」
…ふっ。ルルシーも気づいたようですね。
そうですよ。
「カミーリア家の女性をたぶらかすつもりか…!?」
「そんな、俺を悪者みたいに言わないでくださいよ。失礼な…。ちょっとハーレムの会員が増えるだけじゃないですか」
アリューシャじゃないけど、これがいつもの…俺の…日常ですよね?
俺のハーレムの会員になる、とっても幸せな女性が一人二人、増えるだけです。
俺も『ローズ・ブルーダイヤ』を返却出来るし、カミーリア家の女も俺のハーレムに入れるし。
誰も困らない、皆が幸せになるウィンウィンの計画ですよね。
いやぁ素晴らしい。
「さすがルレイア師匠。この危機的状況でも、誰もが幸せになって丸く収まる解決法を模索するとは…」
「あぁ。ルレイア先輩にしか出来ない、素晴らしい解決方法だ」
「…」
「…」
ルーチェスもルリシヤも褒めてくれたのに。
ルルシーとセルテリシアさんは、互いに「えぇ…」みたいな顔で無言だった。
きっと二人共、この超平和的な解決法に感心してくれてるんですね。そうに違いない。
「さて、そうと決まれば…。『青薔薇連合会』本部に帰って、ターゲットに接触する方法を考えましょうか」
「…こうして、またルレイア・ハーレムの犠牲者が増えていくんだな…」
ちょっとルルシー?犠牲者って何ですか。
俺は全員幸せにしてあげてるんだから、そう言われるのは大変心外ですね。
さて、『ブルーローズ・ユニオン』本部を後にして、『青薔薇連合会』本部に帰還。
俺は、先程話した「平和的手段」を、他の幹部達に話して聞かせよう…と、思ったのだが。
「あぁ、戻ったねルレイア。良かった、すぐに、今から支度してもらえるかな」
俺の顔を見るなり、アイズがそう言った。
…ほう?
「それと、これが招待状ね。場所は帝都の○○ホテル。私の名前を出せばすぐ入れるように手配しておいたから」
「ちょ、ちょっと待てアイズ。さっきから何の話だ?」
ルルシーが割って入り、アイズに尋ねた。
「だって、ルレイア。カミーリア家の御婦人かお嬢さんを落として、『ローズ・ブルーダイヤ』をカミーリア家に返しに行くんでしょう?」
「えっ…!アイズが何でそんなこと知ってるんだ…?」
まさか俺達とセルテリシアの話し合いを、盗み聞きしてた?って聞きたくなりますけど。
そうじゃないことは、よーく分かってますよ。
「さぁ。ただ、ルレイアならそうするかなって思っただけだよ」
「…!」
ルルシーが目を見開いて感心していると。
「アイズ、これ頼まれてた書類…。あっ、ルレイア。お帰り。戻ってきたのね」
「シュノさん。ただいま」
そこに、書類の束を抱えたシュノさんがやって来た。
シュノさんは、俺の姿を見るなり目を輝かせた。
俺達のいない間に、何やら動いてくれていたようですね。
「ありがとう、シュノ。その書類、ルレイアに渡してあげてくれる?」
「うん、分かった…。はいっ、ルレイア。これ」
「ありがとうございます、シュノさん」
俺の予想が正しかったら、この書類は…。
「ウチの情報班に調べさせた、カミーリア家の調査書。家族歴や、簡単な身辺調査もしてある」
やっぱり。
そうだと思いました。
「アイズ、お前…。いつの間に、こんなもの用意して…」
「必要になると思ったものだからね。昨日のうちに調べさせておいたんだ」
「…」
あまりのアイズの手際の良さに、ルルシーは目を丸くしていた。
さすがアイズ、と言ったところですか。
話が早くて助かりますよ。
「と言っても、さすがに時間が足りなかったから、表面的なところまでしか調べられなかったけどね…。詳しいことは今、調べさせてる最中だから。もう少し待ってもらえるかな」
「いいえ、これだけでも充分ですよ」
何なら、事前情報無しに相手を落とすことだってある訳で。
それに比べたら、少しでも先に情報を得られるのは有り難い。
…それから…。
「アイズ、さっき言ってた…ホテルかどうとか、招待状かどうとかいうのはどういうことなんだ?」
と、続けて尋ねるルルシー。
あぁ。さっき言ってましたね。
「カミーリア家のご婦人やご息女に近づく機会がないか、探ってみたんだけどね…。早速、今日の夜に、帝都のホテルでとある貴族のご当主…。ロベリア家っていう中級貴族なんだけど。知ってる?」
「えぇ。勿論聞いたことありますよ」
「そのロベリア家の当主の誕生パーティーが開かれるらしくて、そこにカミーリア家の次女が参加予定らしいんだ」
…ほう。
貴族のお誕生日会ですか。それはそれは。
だが、そこに今回の「ターゲット」が来てくれるなら、俺にとってはチャンスである。
「残念ながら確定情報じゃなくてね、本当に来るかどうかはまだ未確定なんだけど…」
「無理ないですよ。お貴族様の情報を探るのは、俺達マフィアにとっては畑違いですからね」
敵組織や企業の内情を探るのは、日常茶飯時だけど。
さすがに貴族のパーティーの出席名簿について、しかもこんな短時間で詳しく調べ上げろというのは無理な話。
ここまで調べてくれただけでも、充分です。
例え無駄足だったとしても、足を運ぶ価値がある。
「更に、その招待状を手に入れるのに骨を折ったよ。色々とツテを回って…。『frontier』に出資してる『R&B』社って知ってるよね?」
「えぇ。アイズの作った企業ですよね」
「そう、それ。そこの代表として、パーティーの招待状を何とか手に入れたんだ。私の代理人ということで参加してもらえるかな」
「分かりました」
この短期間で、貴族の誕生日パーティーの招待状をもぎ取るとは。
アイズの顔の広さを痛感しますね。
「アイズにそこまでしてもらったからには、俺も手柄をあげない訳にはいきませんね。速攻で落としてみせますよ」
「さすがルレイア師匠…。息をするようにハーレムの会員を増やすとは…。僕も見習わなきゃいけませんね」
「見習うな、ルーチェス。こんなのが二人も増えてたまるか」
ちょっとルルシー。こんなの、ってどういう意味ですか。
素敵なルレイアのようになりたい、って思うでしょう?
全国の子供達の憧れですから。俺。
「それとルレイア。お前が行くなら、俺も行くからな。一人で勝手に行くんじゃないぞ」
「え、ルルシーも来るんですか?」
「邪魔なのは分かってるよ。お前がその…仕事してる時は、離れて見てるよ」
…さては、貴族が集まるパーティーと聞いて、ルルシーの心配性スイッチが入りましたね。
全くもう。ルルシーったら、相変わらず心配性なんだから。
相手が女である限り、俺に落とせない相手は…まぁ、まず滅多にいませんよ。
ルヴィアさんの嫁みたいな、一部落とせない例外もいるのでね。
「分かりました。じゃあ、ルルシーは俺の御付きとして、一緒に来てくれますか?」
「あぁ。任せろ」
そうと決まれば、早速今夜の素敵なパーティーに参加する準備を始めるとしましょう。