The previous night of the world revolution8~F.D.~

…何だ。惚れたか?

「どうしました?」

「あ、いえ…。そのお洋服、何処かで見たことがありますわね…」

おいおい。ボケてるつもりか。

「見たことがあるも何も、帝国騎士団の制服ですよ」

「あぁ、言われてみれば…確かにそうですわね。…でも、どうしてルナニアさんが帝国騎士団の制服を…」

「お忘れですか?俺、今日から帝国騎士団に復帰するんですよ」

貴様の母親が、勝手に決めたからこうなってるんですよ。

全く、良い迷惑だ。

「そういえば…。今日からだったんですのね」

「えぇ。記念すべき初出勤日です」

まぁ、二回目なんですけどね。

再出勤日と言ったところか。

「そうなんですの…。残念ですわ。わたくし、今日はルナニアさんとショッピングに行こうと思ってましたのに…」

それは残念だったな。

つーか、お前はショッピングの前に、大学に行って授業を受けろ。

「済みません、今度のお休みの日に一緒に出掛けましょう」

「…仕方ありませんわね。頑張ってくださいな」

そう言って、マリーフィアはわざとらしく、俺の頬にそっとキスをした。

新妻が、出勤する夫に行ってらっしゃいのキスをするかのように。

気色悪っ。

これがルルシーだったなら、軽く敵対勢力を一掃するくらいのやる気が出るのになぁ…。

マリーフィアじゃ、げんなりするだけで、むしろ元気がマイナスですよ。

夜を共にして以来、マリーフィアとの距離がぐっと近づいた気がする。

俺としては、内心吐き気を催しているが。

それでも、顔だけはにっこりと微笑んでみせた。

「ありがとうございます、マリーフィアさん。行ってきます」

「えぇ。行ってらっしゃいませ」

笑顔で手を振るマリーフィアに、俺もまた笑顔で答え、自室を出た。
しかし。

意気揚々と出勤しようと、屋敷を出ていこうとした直前。

「…行くの?」

「はい?」

突然背後から声をかけられて、振り向くと。

そこには、険しい顔をしたメリーディアさんが立っていた。

お見送りですか。ご苦労なことですね。

「あぁ、メリーディアさん…。おはようございます」

俺がこんなにも、爽やかに挨拶したというのに。

メリーディアは相変わらず険しい顔のまま、俺を睨んでいた。

「どういうつもり?」

「…何がですか?」

「あなた、本気で帝国騎士団に戻るつもりなの?」

「勿論、そのつもりですよ」

この制服を見たら分かるだろう。

「何を企んでるの?」

この女は、俺が何をしようと何か企んでいるようにしか見えないらしい。

確かにその通りですけど、疑われるのは心外ですね。

俺は苦笑いをして答えた。

「何も企んでなんかいませんよ。どうしてそう思うんです?」

「帝国騎士団は、かつて自分を捨てた組織でしょう。どうして、そんなところに戻る気になったの?」

…へぇ。

あなただけは、まともな感性を持ってるんですね。

その言葉、あなたの義理の母親に言ってやってくださいよ。

俺だって、戻りたくて戻るんじゃない。

あんたの継母が勝手に、俺の気も知らずに帝国騎士団に戻ることを決めたんですよ。

「…そうですね。思うところがない…訳じゃないですけど」

俺は、わざと神妙な顔をしてみせた。

思うところがないどころか、あんな奴ら全員死ねば良いと思ってますけどね。

「でも、折角お義母様が良かれと思って、骨を折って俺が帝国騎士団に戻れるよう口添えをしてくださって…。お義母様の労に報いる為にも、俺はもう一度信じてみたいと思ったんです」

「信じる…?」

「えぇ。帝国騎士団の掲げる正義。かつて俺が信じた正義が、まだそこにあると」

「…」

我ながら、最高に白々しい台詞である。

帝国騎士団の掲げる正義(笑)。

そんなものが、本当にこの世に存在するとでも?

「だから、あなたも俺を信じてくれませんか。メリーディアさん」

「…そんなこと…」

「無理、ですか?…分かりますよ、かつては俺も、そう思ってましたから。無実の罪で帝国騎士団を追い出され、実家から追放された時も」

敢えてその時の話を出すと、メリーディアはハッとして俺を見つめた。

よし、食いついたな。

「今のあなたと同じように、何も信じられなくなりました。もう二度と、誰かを信用しない…。世界に絶望して、そう思い込んでいたんです。…でも、そうじゃなかった」

これは、あながち嘘って訳じゃありませんよ。

帝国騎士団を追い出され、精神病院に入院していた間の俺は、何も信じられなかった。

毎日のようにお見舞いに来てくれる、ルルシー以外の何も。

「俺は、自分を信じてくれる人に出会いました。愛しいマリーフィアさんと、心優しいカミーリア家の人々に」

「…」

「あなたのことも、です。メリーディアさん」

俺は優しい微笑みを浮かべて、メリーディアの手を取った。

メリーディアは、その手を振りほどかなかった。
「あなたがどう思おうと、俺はメリーディアさんのことも信じてますよ」

「どうして…そこまで…」

ほう?

「マリーフィアさんが、俺に信じさせてくれたからです。自分なんてどうしようもない存在だと思ってたけど、そんな自分を愛してくれる人がいる。世の中は、捨てたものじゃないって」

今、俺、「マリーフィアさんが」って言いましたけど。

その部分、「ルルシー」に脳内変換してください。そうしたら真実です。

「だから、自分を捨てた帝国騎士団のことも、もう一度信じてみることにしたんです。そう思わせてくれたのは、マリーフィアさんのお陰なんです」

「…」

「すぐには信じられなくても良い…。でも、いつかメリーディアさんも、俺のことを信じてください。いつかそんな日が来るって、俺も信じて待ってますから」

最高に素敵な、「業務用」の笑顔を浮かべてそう言うと。

メリーディアは目を見開き、希望を称えた眼差しでこちらを見ていた。

…ふっ。チョロいな。

あの妹あって、この姉ということか。

じゃ、ここいらが引き際だな。

「…それじゃあ、行ってきますね」

「え…えぇ…」

俺は最後にもう一度、にっこり微笑んでから。

メリーディアに手を振って、カミーリア家の屋敷を後にした。

歩いていく俺の背中を、メリーディアはいつまでも、見えなくなるまで見つめていた。
…で、そんなことは心底どうでも良い訳ですよ。

それよりも、俺にとって大切なのは。

「…ようやく来たか。ルレイア」

「…る…ルルシー…」

待ち合わせ場所に向かうと、そこに、既にルルシーが来ていた。

ルルシーもまた、帝国騎士団の真っ白い制服を着て。

目立たないようにだろう、その上にグレーのジャケットを羽織って、俺を待っていた。

な…なんて素敵な…。

「ルルシぃぃぃぃっ!」

「ちょ、馬鹿。抱きつくな!人が見てるだろうが!」

そんなことどうでも良いんですよ。

誰が見ていようと関係ない。今、俺の瞳に映っているのはルルシーだけです。

「だが、まぁ…一応、元気そうで良かった」

「朝からルルシーに会えたので、俺は元気いっぱいですよ」

「そうか…。なかなか来ないから、何かあったんじゃないかと思って心配したぞ」

あぁ、それは済みません。

出掛けに、マリーフィアとメリーディアの相手をしなきゃならなかったもので。

「お待たせして済みませんでした」

「いや…良いよ。こうして元気そうな顔見られたから、それで充分だ」

聞きました?今の台詞。

完全に俺を殺しに来てますよ。

「はぁはぁ、ルルシー素敵。はぁはぁ…」

「…何妄想してるんだ。気持ち悪い」

「胸がきゅんってしました。今、胸がきゅんって」

「はいはい…」

呆れ顔のルルシー。でもその顔も素敵。  

久し振りに見るから、余計素敵に見えますね。

「そんなことは良いから、さっさと行くぞ」

「そうですね。それじゃ、朝ご飯を食べに『ブラック・カフェ』に寄って行きましょうかー」

「は…?」

おっと。驚いているようですね?ルルシー。

それもそのはず。

「最近『ブラック・カフェ』で、数量限定のモーニングメニューの販売を始めたんですよ。あ、テイクアウトも出来るんですよ」

「おい、ちょっと待て。悠長に黒カフェで朝飯食ってる場合じゃ、」

「ルルシーとリッチにブラックなモーニング…。とっても素敵ですね!」

「あ、こら」

想像しただけで、胸が高鳴りますよね。

一日の初めは、美味しい朝食から。

俺は早速ルルシーと腕を組んで、自分のお店に向かった。
その後、俺は『ブラック・カフェ』でルルシーと共にモーニングを堪能。

久し振りに、ルルシーと一緒にお食事とお喋りを楽しみましたよ。

素晴らしい時間でした。

で、ついでにお土産も買ってきました。

「はー。美味しかったですねー、ルルシー」

「あぁ…相変わらず全てが真っ黒だったな…」

「ルルシーは、どれが一番美味しかったですか?」

「そうだな…。クロワッサンサンドも美味かったけど…。デザートのヨーグルトが美味しかったな。あれで黒じゃなくてちゃんと白かったら、もっと美味しかったと思う」

「あ、あれはヨーグルトじゃないですよ」

「え?」

「シェルドニアジゴクヒグマの脳みそペーストに、シェルドニアシッコクダイワームを磨り潰して作ったソースをかけたものです」

「うぉぇぇぇ…」

うふふ。ルルシーったら素敵な反応。

期待通りで、とっても嬉しいですよ。

何なら、美味しいって言って食べてた、あのクロワッサンサンドも…「にゅふふ」な材料で作ってますし。

ルルシーにはまだちょっと刺激が強いので、また今度お話しましょうね。

「そ、そんなことより…」

気持ち悪いものを食べさせられたことを忘れようと、ルルシーは頭を振って話を切り替えた。

「今、もう結構良い時間なんだけど…。絶対、出勤時間過ぎてるよな…」

「そうですね」

時刻は、午前10時過ぎ。

いやぁ。重役出勤ですね。

「入社…いや、入団初日にこれは不味いだろ…さすがに…」

「そうですか?あんな奴ら、いつまででも待たせてやれば良いじゃないですか」

「これが普通の企業だったら、俺達初日でクビだな」

普通の企業だったら、ね。

普通じゃないですから。俺も、ルルシーも、帝国騎士団も。

「まぁまぁ、そんなことは気にせず」

「気にするだろ…」

「ゆる〜く行きましょうよ。ゆる〜く。肩の力を抜いて。ね?」

「お前はいつも、本当に力入ってる時あるのかってくらい肩の力抜きまくってるよな」

え?今何か言いました?

全然聞こえませんでしたねぇ。

「じゃ、食後のスムージーでも買って飲みながら、のんびり出社するとしましょうか〜」

「…自由だな…」

そりゃあ、勿論。

帝国騎士団の、お固い規則に縛られるなんて二度と御免ですからね。
――――――…その頃、帝国騎士団では。

「…♪♪♪〜」

「…きっしょ…」

ルレイア・ティシェリーが、俺達のいる帝国騎士団に戻ってくる、その日。

オルタンスはご機嫌で、何やら忙しそう。

何処からか脚立を引っ張り出してきて、会議室の壁や廊下や窓に、黒い紙で作った花飾りを、ぺたぺた貼り付けていた。

…こいつ、勝手に会議室に何してんの?

大人しく部屋で仕事してんのかと思ったら。

「…おい、オルタンス」

「アドルファスか。丁度良かった。ちよっと手伝ってくれ」

冗談じゃねぇよ。誰が手伝うか。

それでも、脚立の上からオルタンスが手渡してきた、黒い画用紙を裏返してみると。

キラキラしたマーカーで、「お帰り。ルレイア」と書かれていた。

…何これ。推しの応援グッズ?

「折角ルレイアが帰ってくるから、歓迎会を開こうと思ってな」

キラキラマーカーと同じくらいキラキラした目で言われた。

あ、そう…。

あまりにもオルタンスが嬉しそうだから、俺としては何も言えない。

「ルレイア、って言うか…。ルルシーとかいう幹部もセットらしいけどな…」

ルレイアが帝国騎士団に復帰する直前になって、ルレイアから直接要請されたのだ。

ルルシーという、件のルレイアの相棒も一緒に、と。

何か企んでるんじゃないかと訝ったが、オルタンスはけろっとして、二つ返事で了承した。

…まぁ、ルレイアとルルシーを引き離すような真似をしたら、闇討ち不可避だからな。

下手なことは出来ない。

それに、ルルシーという幹部は、ルレイアの相棒とは思えないほど常識人みたいだし。

むしろセットで戻した方が、ルレイアの暴走を止めてくれるんじゃないか?という希望的観測もある。

ルルシーの方も、昔ルキハという名前で帝国騎士団に所属していたことがある、という経緯から。

復籍するのは、それほど面倒な手間ではなかった。

で、今日はそんな二人が帝国騎士団に戻ってくる日なのだが。

「…来ねぇな、あいつら」

時刻は、既に午前11時近くになっている。

あれ?今日からだよな?

一向に出勤してくる気配がないんだが、もしかして初日からボイコットしてるんじゃないよな?
散々こっちに骨を折らせておいて。

やっぱり直前になって、「あ、復籍の件ですが、やっぱやめますw」とか言い出すんじゃないだろうな。

あのルレイアなら、有り得るぞ。

「早く戻ってこないかな?」

オルタンスは、ずっとそわそわしながら待ってる。

歓迎のクラッカーを構えて。

お前はアレか。誕生日パーティーを待ちきれない子供か?

しかも、浮かれているのはオルタンスだけではないようで。

「ここにいたのか」

「あ…ルシェ…」

ルレイアの姉であるルシェが、わざわざやって来た。

どうやらルシェも、ルレイアが来るのが待ちきれないらしいな。

「ルレイアは?まだ来てないのか」

「あぁ…まだだな…」

既に思いっきり遅刻している時間なんだが。

あいつ、今日からだってちゃんと分かってるよな?

初日から重役出勤なんて、これが通常の一般団員だったら、前代未聞の反抗的な異端分子だが。

ルレイアなら…しょうがないよな。

何もかも、「ルレイアだから」の一言でどんなイレギュラーも納得出来てしまう。

魔法の言葉だな。

更に。

「あ、アドルファス殿…。ルシェ殿とオルタンス殿も。こちらにいらっしゃったんですね」

オルタンスとルシェに加えて、ルーシッドまで登場。

皆して、ルレイアの出待ちでもしてんのか?

俺は関係ないぞ。ルレイアが来ようが来るまいが、どうでも良いからな。

俺はただ通りかかっただけだ。

しかも、ルーシッドは。

「…ルーシッド、お前それ、何持ってんだ?」

何やら、白い紙袋を手に持っていた。

「あ、これ…。一応、入社祝い…と言うか、入団祝いです。大したものじゃないんですが…」

マジかよ。

お前もオルタンスみたいに、ルレイアの入団祝いに便乗するつもりか。

「以前、ルティス帝国総合大学に潜入していた時、ルレイア殿にはお世話になったので…」

あぁ、成程そういうことか。

そういや、そんなこともあったっけ…。

その時の恩返しの意味を込めて、それで入団祝いを用意したのか。

律儀な奴だよ。ルレイアと同居中、随分振り回されて難儀しただろうに。

それはそれ、これはこれでルレイアに恩義を感じているとは。

「残念ながら、ルレイアはまだ来てないぞ」

「え、そうなんですか…。…遅いですね…」

「あぁ…」

もしかして、このまま初日からサボタージュするつもりなんだろうか。

ルレイアなら有り得る。

あるいは、こちらから連絡してみるべきなんだろうか。

いや、でも下手なことをして、ルレイアの逆鱗に触れたくないしな。

あいつが自らここに来るまで、辛抱強く待つことにしよう。
――――――…帝国騎士団の連中を、ジリジリとたっぷり待たせ。

俺とルレイアが帝国騎士団隊舎の入り口に辿り着いたのは、既に午前から午後に変わっていた。

…ルレイアに付き合わされるままに、朝っぱらから『ブラック・カフェ』に寄って。

おまけに、デザート代わりのスムージーまで飲んできたけど。

入社初日から重役出勤って、やっぱり不味いんじゃないのか?

午前じゃないんだぞ、もう。午後だぞ。

何時間遅刻してんだよ。

それなのに、ルレイアは余裕の表情で。

「いやぁ、ルルシー。社長ですね、俺達」

「…笑い事じゃないだろ…」

社長じゃないんだぞ。俺達、新入社員なんだぞ。

「どうするんだ?初日から遅刻するなんて言語道断だ、って処罰を受けたら…」

有り得なくはないだろう。元々帝国騎士団は、規律に厳しい組織なんだから…。

しかし、ルレイアはそんな俺の心配を軽く一笑に付した。

「その時は、むしろ俺がそいつに『処罰』を下してやりますよ」

「…」

…怖っ。

とんだ反抗児だな…。今に始まったことじゃないが…。

むしろ、ルレイアがこれほど余裕綽々な態度であることを喜ぶべきか。

ルレイアにとっては、因縁の、忌まわしい帝国騎士団だ。

険しい顔をして緊張しているようだったら、俺は誰が何と言おうと、ルレイアをここには連れてこなかっただろう。

こいつは、無理してる時に、それを隠すのが上手いからな。

ルレイアの表情に変化がないか、俺がしっかり見張っておかなくては…。

「こんにちはー。ルレイアですよー」

思いっきり遅刻しまくってるのに、ルレイアは堂々と、全く悪びれることなく出勤。

ふざけた態度である。

しかも、俺まで同じように、そのふざけた新入社員の片棒を担いでいるのだ。

…ないとは思うけど、もし罰を受けるなら、俺も一緒に受けるよ。

すると。

突然、ぱーんっ!という鋭く乾いた発砲音のようなものが響いた。

「ルレイアっ…!」

何処からか狙撃でもされたのかと、咄嗟にルレイアの前に出て庇ったが。

その心配は不要だった。

「お帰り、ルレイア。それにルルシーも」

そこには、クラッカーを構えたオルタンスの姿があった。

は、はぁ…?

はらはらと、クラッカーの中身が宙を舞っていた。

…普段、ルリシヤが自作した、手の込んだ香り付きのクラッカーばかりを見慣れているから。

市販されている普通のクラッカーを見ると、妙に地味だと感じてしまうな。

…なんて、感心してる場合かよ。
「…何なんだ?ルレイアに先制攻撃でもするつもりか」

もしそうなら、俺は反撃するぞ。

しかし、オルタンスは。

「ようこそ、帝国騎士団に」

攻撃どころか。

…歓迎してる、のか?これは、一応…。

よくよく見たら、廊下の壁や窓に、紙で作った飾りがべたべた貼ってある。

…何これ?

「…嫌味か?嫌がらせのつもりなのか?」

「まさか。この馬鹿オルタンスは、これで真面目にお前達のことを歓迎してるんだよ」

オルタンスの代わりに、隣にいたアドルファスが答えた。

歓迎だと?

それはそれで、嫌味たっぷりだな。

戻ってくることを歓迎するくらいなら、最初から追放なんかしなきゃ良かっただろ。

それに、俺達を待っていたのはオルタンスだけではなく。

「…ルレイア…」

「…」

ルシェまで、俺達を待ち構えていた。

俺「達」って言うか…オルタンスとルシェが待っていたのは、俺じゃなくてルレイアだけだろうけど。

俺はあくまで、ルレイアの付き添い的な扱いでしかない。

付き添いで結構。

帝国騎士団の制服を着たルレイアを、ルシェは感極まったような表情で見つめていた。

が、ルレイアはそんなルシェを、どうでも良さそうに一瞥し、すぐにそっぽを向いた。

それを見て、俺は心なしか、ホッとしてしまった。

ルレイアが本気で…帝国騎士団に戻るつもりじゃないって分かったから。

そんなことはないだろうとは思ってたけど、それでも、ここは元々ルレイアの古巣だった訳だから。

思うこともあるだろう。…俺よりも遥かに。

…しかも、オルタンス、ルシェの他にも、ルレイアを待っていた隊長がいた。

「あの、ルレイア殿…。お久し振りです」

ルーシッドである。

お久し振り、ってどういう意味かと思ったけど…。

そういや、ルーシッドは暫くの間、ルレイアと同居してたことがあるんだっけ。

その節は、ルレイアが迷惑かけて済まなかった。

それなのに、薄情なルレイアは。

「あ?誰ですかあなた」

…おい。ルアリスの時と同じアレか。

「えっ…。いや、あの…。ルーシッドです」

「ルーシッド?知りませんよ、そんな人。気安く話しかけないでください」

始まったぞ。ルレイアの年下イビリが。

すーぐ年下をイビるんだから、こいつは…。

「見てくださいよ、ルルシー。この人、俺の知り合いの振りして、馴れ馴れしく話しかけてくるんですよ。きっとこれは新手の詐欺、」

「…いい加減にしろ、馬鹿ルレイア」

「あ痛っ」

俺はペシッ、とルレイアの後頭部をはたいた。

今日もルレイアが絶好調で、ルレイアのメンタルを心配していた俺としては、非常に安心したけれど。

それにしたって、ルーシッドをイビって遊んで良い訳じゃないからな。