「……おいしい?」
静寂を破るのに、ほんの少し緊張した。
下心を悟られないようドキドキしながらそう聞けば、藍くんは「んまい」と言って赤い舌でぺろりと口の端をなぞる。
「よかった……!」
「こんなに暑いのにビーフシチューを?」
「きっと模試で疲れてるんじゃないかなと思ったから、がつんと疲労回復できるようなメニューがいいなと思って」
額から流れた汗を拭きながら、「気合い入れたら作り過ぎちゃったけど」と笑っていると、不意に腰に手がまわり、後ろから藍くんに抱きしめられた。
肩に顔を埋めるような藍くんの仕草に、緊張とドキドキと、そして焦りが一気に押し寄せる。