すると緩慢とした足取りで藍くんがキッチンに入ってくる。


「うまそうな匂い」


わたしは藍くんの方を振り返り、お鍋をかきまぜていたおたまをちょっと持ち上げてみた。


「味見する?」

「ん」


藍くんの口元に、わたしはおたまに掬ったビーフシチューを向ける。

すると藍くんは上体を倒して、おたまを持つわたしの手に自分の手を重ねてビーフシチューを啜った。


伏せた視線が妙に扇情的で、なんだか見てはいけないものを見ている気になっちゃう。