「本当に、話覚えてるの?」


そのざわつきを押さえたのは、萌だった。

まっすぐ綺麗な瞳で見つめられ、女の私ですらドキッとする。


「だ、大体だけど…。でも私にはできないし。

萌ちゃんだって、そう思うでしょ」


この間、いちばんに私を否定した彼女。

そんな彼女が、私の姫役を受け入れるはずがない。


「天才じゃん!もう妃花しかいないよ救世主だよ!」


だけど彼女は、ぱっと顔を輝かせて、

左足でぴょんぴょんと飛びながら私の席までやって来た。


想像できなかった行動に、私は驚きながらも慌てて席を立ち、足を庇う彼女に椅子を譲って座らせる。


「ちょっと、待って、私には」

「無理なんて言わせないよ。妃花しか覚えてないんだもん。

大丈夫、私が可愛くしてあげるから!!」


なぜか、自信満々に微笑む萌。

その姿に他のキャスト陣も固かった表情をやわらげ、私の席へと集まって来た。


「じゃあ台本の合わせはしよう!

休憩時間潰せば、3回くらいは通せると思うから!みんな、いいよね?」


「もちろん!これ、私の台本使って?

妃花ちゃん優しいから雰囲気ぴったりだと思うし大丈夫!」


「は?なにそれ私が合ってなかったって言いたいの?」

「あはは、違うよ!でも正直合ってるじゃん、萌も言ってたじゃん!」


「え、ちょ、ちょっとみんな待って…?」


そんな、皇輝のような強引で明るいみんなに飲み込まれ、断る声は届くはずもなく。

いつの間にか私は姫役をやることになっていた。