「…何をしている!!!」


痛みを覚悟して、ギュッと固く目を閉じた時、そんな声が聞こえて、体が解放されました。

目を開けると、焦った顔で駆けてくる王子様の姿が見えます。


あれ、私もしかして刃物で刺された?死んじゃったの?都合の良い夢?

ぼんやりとした頭で見つめていると、駆け寄って来た王子様に抱きしめられました。


「遅くなって悪かった。こんな風になっているとは知らず…。怪我はないか?」


耳元で聞こえる優しい声に、少女は思わずギュッと抱き着き、涙を流します。


「何を理由に、彼女にこのようなことをしている?」


少女を抱きしめたまま、周りを見渡す王子様の目は鋭く、恐ろしいものでした。

少女に対する声色とは全く違う、低く重い声に、町人たちは皆跪きます。


「…し、失礼ながら王子様。その者が王子様に媚びを売りご迷惑を掛けたとの噂があり…」


震える声で、少女に切りかかろうとしていた男が理由を述べました。


「それは、私がこの者に、婚約を申し込んだからか?」

「は、はい。その通りでございます」


その言葉に、王子様は、ギュッと少女を抱きしめる力を強めた。


「求婚は紛れもなく私自身の意思だ。

少しくらい媚びを売ってくれてもいいくらい頑なに断られているところだがな…。

くだらん噂だ。」


馬鹿にしたように笑う王子様に、町人たちは皆気まずそうに顔を背けます。

その様子を見た王子様は苛立ちを露わに声を荒げました。


「お前ら、恥ずかしくないのか?

この娘が、これまでどれだけお前らに親切にした?

どれだけ町の為に働いた?

それで何か見返りを求められたことはあったか?

これまでの善行の全てを、たった一つのくだらない噂で忘れるなど、誠に遺憾だ。

この町には失望した。」


少女は、王子様の胸の中で、涙を流し続けていました。

王子様の温かい言葉が、傷つかないように作っていた高い壁を壊したのです。


「行こう。もうこんなところにはいなくていい」


声を落とし、優しく微笑んだ王子様は、少女を連れてその場を後にしました。


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