「はいはい、そこまでなー??」


ガラと、大きな音を立てた教室の扉。

顔を上げると、反対側のドアから男の子の背中が入っていくのが見えた。

その後ろ姿と軽やかな声に、その正体は皇輝だと気付く。


不穏な空気が流れるようになって数日。

そんな空気なんて何も気にしていない様子で平然と過ごしていた皇輝は、きっと何も気付いていないんだと思っていた。


「え、あ、皇輝…」

「いや、えっと…」


気まずそうに言葉を詰まらせる教室に対して、聞こえてくる皇輝の声は明るかった。


「俺は、何言われたっていいけど!陰で言うの良くないぞ〜!気をつけろよ!」


注意をするとは思えない、いつも通りの明るい口調で話しかけた彼。


「な、なにそれ、よく分かんないけど、でもごめんね」

「ごめん。確かに言い過ぎてた」


戸惑いながらだけど、注意されたことに対しては素直に謝る声が聞こえてきた。


「うん。素直でよろしい。まぁ俺、話題性あるからな!あはは」

「清々しいなぁ、その通りだけどさ」


冗談を入れ込みながら、教室の空気は明るくさせた彼。


やっぱり皇輝は凄い。

さっきまで、どんより嫌な空気が流れていた教室を、あっという間に明るい空間にさせてしまうんだから。

周りを明るくするそんな天性の才能の持ち主だ。


だけど、その後に呟いた声のトーンはしっかりと落ち着いた真面目なものだった。


「あいつも悪くないからさ。俺が勝手に言ってんだから、矛先向けるなよ。」


自分の悪口に対しての時とは違った、私を庇うような真面目な言葉。

驚きながらも少し心を突き刺していた痛みが和らいでいく。


「あー…うん、そうだよね。こんなこと言ったって仕方ないけど、話してたら盛り上がって言っちゃっただけで、実際思ってたわけじゃないから…」

「うん、妃花が優しいのは皆知ってるし。でも、本気じゃなくても言っちゃって申し訳ないよね」


「ああ、わかればいいんだ!だから代わりに俺に謝っとけ!」

「いや、何の代わりだよー!」


笑い声が再び溢れて、暫くして教室のドアは開かれた。