「帰らなくていいの?」

「あー…うん、そろそろ帰ります。先生も今日は定時ですか?」

「もちろん、日中そのために集中していたんだから」


柔らかく笑った先生に、私も笑みを零し、教室へと戻った。


そろそろ皆は下校した頃だろう。

きっと皇輝も帰ったはず。


そんなことを思いながら教室へ向かうと、教室からは女の子の声が聞こえてきた。


あ、まだだれか残っていた。

でも、皇輝はいないみたいだし。


教室のドアにそっと手を掛けた時、

聞こえてきた話に私は思わずドアの窓から身を隠し、廊下に背を付けた。


「皇輝だけどさ、流石にきもくない?」

「あー、あの告白?運命ってやつ?確かにー」


女の子たちの噂話は、私達のことだった。


「そうそう、正直面白くないしさ、顔良いのにもったいないよねー」

「あはは、ほんとだよね、顔だけは超いいのにね!」


かなり言いたい放題言われているみたいだけど、女の子なんてそんなものだよね。

廊下にもたれながら、入るタイミングをうかがっていると、噂話は思わぬ方向へと流れ始める。


「てか、妃花もさ。」


流れるようにして聞こえた私の名前に、私の心臓は嫌な音を立てた。


「実は、喜んでたりしてね?」

「えー、ないでしょ、超迷惑そうじゃん!
妃花ちゃんのあんな顔見たことなかったし」

「え、でもさそれが逆にさ、嬉しさの裏返し?みたいな!」

「そういうこと!?えーだとしたら、ちょっと痛いよね。対して可愛くもないのに」

「それなーあはは」


軽やかに流れていく言葉たちに、私の心はきゅっと痛み、体が重く沈んでいく。

先生と話し、お花に触れて、落ち着いた心がまた嫌な風を吹かせていた。


だから、嫌だったのに。

私みたいな地味な人間が目立ったら、こういうことになるのに。

分かっているから、静かに大人しくしていたいのに。


どんどん暗く落ち込んでいく感情に、足元を見つめると、もうかなり汚れた上靴が目に入った。