「久しぶりだな」


扉の向こうには、王子様本人が立っていました。


想像していた家来ではなく、怒っている王子様でもなく、笑顔を浮かべた王子様でした。

心なしか、以前お見掛けした日よりも輝いた服装をしているような気さえします。


頭を下げることも忘れてただ立ち尽くす少女を王子様は笑いました。


「俺の妻になれ」


そして、放たれた言葉に辺りは皆、騒然とします。


それは、怖いもの見たさで覗いていた町人たちに限らず、王子様が連れている家来も含めたことで。

その発言が王子様ひとりの意思にあることを物語っていました。


「……御冗談はおやめください。以前の無礼は私が謝罪いたしますので、どうか、家族だけは」


少女は、周りの人たちと同じ様に、しばらく呆然とした後、正気を取り戻し、深く頭を下げます。


どういう意図かは分からないけど、きっと何か理由があるんだ。

連れて行かれて酷い目に合わされるのかもしれない。

それなら、家族だけは守らなきゃ。


そんな覚悟を決めた少女に、王子様はあっけらかんとした様子で、次の言葉を放ちました。


「無礼?お前は何も無礼なことなどしていない。俺が、あの日のお前に、惚れたのだ」