「僕は、レインはそんな女王になると思っているよ」
「ああ、やっぱり、王家にお返しになるのですか?」
「あそこを安全にしてからだ」
「隣には、ユリウス様が立たれるのですよね?」
「……どうだろう。王家から打診が来ている。公爵家の養女を第一王子の婚約者に、と」
「ああ。今の王家は求心力が弱いですからね。先代女王陛下のカリスマがずば抜けていたばかりに。弟である現国王陛下は気が優しい方ですが、優しすぎるきらいがある。今のうちに、有力貴族であるアンダーサン公爵家とのつながりを作っておきたいんでしょう」
「僕と第一王子、同じ従弟という立場でも、レインの足場を固めるなら……それに、レインに女王という重荷を背負わせないためには、第一王子の方がいいんだ。きっと」
「……そうですか」

 ダンは静かに言った。

「おひいさまを愛しているのは、間違いなくユリウス様だとは、思いますがね」

 じょうろを片付けながら、ダンが言う。その腰はしゃんと伸びており、腰が曲がった老人とは思えなかった。

「……愛している、だけじゃ幸せにできないんだよ。ダンゼント元騎士団長」

 ユリウスのつぶやきは、ダンの後ろにも届かない。
 ただむなしく消えていくだけだった。