「おひいさまがタンポポが好きとは、儂は驚きましたぞ。先代女王陛下と同じです」
「ダンは先代女王陛下に仕えていたんだったか」
「ええ。騎士団長になる前から、近衛騎士としてお仕えしておりました。恐れ多いながらも、娘のように思って……あの頃は、儂の人生で最も輝かしい日々でした」
温室の外、東屋にはメイドにお茶を出されて喜んでいるレインが見える。
少し肉がついただろうか。紅色に染まる頬を見るたびに、ユリウスは安心する心地になる。
「タンポポは民のようなものです。雑草としてみる人間には価値がわからない。タンポポだと知っていればただの草ではなくなる」
「人もそうだ。民草のことをひとまとめにして捕らえる為政者がいる一方、彼らを個としてとらえる為政者がいる。……レインは、きっと後者だ」
ダンの言葉尻を掬うように、ユリウスは静かに言った。ダンが頷く。