まあ、おいしいとは言っても、他の草に比べて、ではあるし、公爵家で出される素晴らしい料理に比べては申し訳ないものなのだが。
 思い出しながら言葉を紡いだレインは、言ってしまってから、あ、と思った。
 公爵家には――レインの今の身分である、公爵家の令嬢、にはふさわしくない話だった。
 やってしまった、とうなだれるレインの髪を、ユリウスの指がすく。

「そう、それで……他にはどんなものを食べていたの?」

 ユリウスの手が握りしめられている。怒りだろうか。けれど、そこにレインへのものは感じられなかった。ユリウスは、きっと男爵家の人間に怒っている。
 ふと、気になることがあって、レインは尋ねた。

「……引かないんですか」
「レインのことで嫌だと思うことはないよ。むしろ、レインの言葉を、レインの口から、もっと聞きたい」
「……ありがとうございます」

 タンベット男爵家では、レインのことを聞くだけでもわずらわしいと言われていたのだ。
 だから、レインにはユリウスの態度は新鮮で、心臓をなんだかあたたかくさせるものだった。