「あの一家……ここまでレインをむしばむなんて、処刑では生ぬるいな……」
「お兄様?」
「なんだい? レイン」
「お兄様、眉間がしわしわです。なにか嫌なことがありましたか……?」
「いいや、レイン。なんでもないいよ」

 ユリウスが何事かを暗い顔でつぶやいていた気がしたが、レインの言葉にいつもの優しい笑顔に戻った。
 琥珀色の目がゆるりと細くなり、やわらかな色を宿す。

 ユリウスの手がレインの頭を撫でてくれる。レインははにかんで目を細めた。

「そうか、では、この庭園をタンポポでいっぱいにしよう」
「ええっ!? で、でも、公爵家のお庭にはふさわしくないですっ」
「レインが好きかどうかが大切なんだ。私はレインの好きなものをまたひとつ、知ることができてうれしい」
「好き、というか……」
「というか?」

 ユリウスは、レインのゆっくりとした言葉を、ひとつひとつ、しっかり聞いてくれる。それが嬉しい。

「男爵家にいたころ、よく森から失敬して食べていたんです。タンポポは葉も花も食べられますし、土を落とせば根もおいしいんですよ」