「ユリウス、ヘンリエッタの故郷の村に、彼女の本当のお母様がいらっしゃるんです。人質として。……今すぐ、人をやってもらえますか」
「ああ。では騎士をひとり遣ろう。ダンゼント、任されてくれるか」
「は。お任せください。馬で駆ければすぐです」
本当は、自分が行きたい。行って、ヘンリエッタの実の母親の無事を確認したい。けれどレインが行けば目立ってしまって、ヘンリエッタの母親の無事が保証されない。
身分というのはままならないものだ。
レインが目を伏せると、ユリウスがそっとレインの肩に手を置いて、撫でてくれる。
その手があたたかくて、許されているような気持ちになって、レインは小さくうなずいた。
ふと見ると、アレンが騎士の一人に抱かれて眠っている。緊張することばかりだったから、安全な場所について安心してしまったのだろう。
その寝顔の安らかさに、レインはほ、と笑みを浮かべた。夜明けが朝へと変わる。
青い空が、レインたちの上に、高く、高くある。終わったのだわ、と思って、レインはユリウスの胸にそっと頭を預けたのだった。
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