オリバーは、本気でレインを排除しにかかっている。そうすれば、自分が王太子になれると信じて。
 どこに運ばれるのかはわからない。それは、レインが助けを期待すべきユリウスたちも同じだろう。

 少なくとも、レインたちの居場所がわかるまでにはずいぶん時間がかかるはずだ。
 せめて、ユリウスたちにレインがどこを通ってきたかを知らせることができれば……。
 そこで、はっとレインは、ガウンのポケットにあるふくらみに気付いた。

 そこにはハンカチに包まれたサファイアのネックレスがある。

「……」

 レインは少し考えて、眉根を寄せ、けれどきゅっと唇を引き結んで、そのサファイアのネックレスを引きちぎった。
 雫型のサファイアが連なるネックレスは、あっけなくちぎれてバラバラになった。

 雫型のビーズ状になったサファイアが何粒も何粒も、レインの手のひらで転がる。レインはそれを、今もがたがたと走り続ける馬車の床の隙間から一粒ずつ、感覚を空けて落としていった。

 男たちは馬に乗っているか馬車の御者をしている。隙間から落ちた小さなビーズなんかに気付かないだろう。
 ユリウスが、これに気付いてくれるかは賭けだった。けれど、レインには死ぬつもりなどありはしなかった。
 必ず、ユリウスの腕の中に帰るのだという決意があった。