今日の気分をもう少しだけ味わいたくて、ガウンのポケットの中にいれたサファイアのネックレスを握る。
 繊細なそれを取り出して月光に透かすと、薄青い光がレインの手を照らし、今日のことが鮮明に思い起こされる。
 ふふ、と笑って、レインはネックレスをハンカチに包み、ガウンのポケットにしまいなおした。

 その時、ふっと中庭のはずれからこちらに歩いてくる人影が複数見えた。一瞬身構えたレインだったが、その先頭に見知った顔を見かけて、ほっと表情を緩める。
 その小さな人影は、第二王子であるアレンだったからだ。

「アレン王子……、……?」

 けれど、すぐにレインの表情はこわばった。
 アレンが泣きながら歩いてきていることに気付いたからだ。
 そば仕えの従者たちは、アレンが尋常でない様子なのにも関わらず、手を貸そうとも、あやそうともしない。

「どうなさったの、アレン王、子……!」

 そこまで考えて、レインはアレンの首に、まるで犬を繋ぐように縄がかけられているのに気づいた。
 けれど犬の方がまだましだ。ぐいぐいと力加減をせずに首の縄を引く男たちは、アレンの様子を見ようともしない。