「私は『もの』と言いました。私を、イリスレインだとする証明は、身に着けるようなものではなく、この体自身にあるとすれば……?」
「あざや何かだと言うのですか!」
「いいえ。私をイリスレインたらしめるのは、この目」

 エウルア伯爵、と呼ばれた男が目を見開く。知っていたはずだ。卒業パーティーの日、あんなに騒がれたのだから。それを知っていて、レインのお披露目に黒い泥を吹きかけるためにわざわざこの場で言ったのだ。今は夜、陽の光がないと、暁の虹は出ないから。

 レインは予め頼んでおいたものを持ってきてもらうべく、会場の隅に控えていた女官長のベルに声をかけた。

「女官長、例のものを」
「はい、イリスレイン王女殿下」

 レインはベルから受け取った巨大な水晶のようなものを掲げた。
 澄んだ、透明な石は、大広間のシャンデリアの光を透過して、イリスレインのドレスをきらきらと照らした。